よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 七月第一週の金曜日、ネットのライブ配信で川澄大賞の受賞会見を見た。選考時間がまちまちなので、結果発表と、その直後に行われる受賞会見の時間は決まっていないが、今回の発表は早く、会見もすぐに行われた。川澄大賞は下馬評通り青谷が受賞した。
 和樹は普段と違う服装、だぼっとしたTシャツに短パン、ニット帽にサングラスという姿で白雄と一緒に二階へゆき、法律事務所のドアをノックした。三井が「これでいいかな」と出てくる。
 扇のように広がった形でガチガチに固められた髪、顔は真っ白にメイクされ、その上にサングラス。仕上げは野性味あふれる袖無しの黒いライダースジャケット。いつもと違った雰囲気でいこうと決めてはいたが、カーンと突き抜けてる。
「何か個性的だね」
 白化粧越しに、三井が照れ笑いしているのがわかる。
「僕はセンスがないから、古着屋の人にコーディネートしてもらったんだ。なるべく今の雰囲気を変えたいって。髪もメイクもその店の人のアドバイスでね」
 道を歩いていて、この姿の三井に言いがかりをつける輩(やから)は一人もいないだろう。怒らせたら、返り討ちにあいそうだ。
「昔、こういうスタイルのロックバンドがいたなーって懐かしくなったよ。和樹君は若い感じだね。白雄君は普段とあまり変わらないかな」
 白雄は黒いTシャツに黒いジーンズ、黒いニット帽だ。それに黒いサングラスと黒いマスクが追加される予定だ。怪しいことこの上ない。そのまま銀行に飛び込んでナイフをつきつけ「金を出せ」と言っても通用する。
「ごめん、ごめん、お待たせ〜」
 奥から出てきた徳弘は、ポロシャツに短パンと普段着だ。カメラマン役で映像には映らないので、何の変装もしていない。
 ペロンとラインに連絡が入る。松崎からで『銀座八丁目ユイットビル前待機』とある。オッケーのスタンプを入れて、四人でタクシーに乗り込んだ。午前一時を過ぎているから、もう電車は走っていない。梅雨はまだ明けておらず、昼間は雨が降ったり止んだりしていた。ことの最中に雨に降られたら嫌だなと思っていたが、今は何とか降らずにいる。ただ路面は濡れていて、ライトを反射しギラついていた。
 三井の髪はタクシーの天井につっかえて窮屈そうだ。運転手は行き先を聞いただけで後は一切喋らず、時折バックミラーでチラチラとこちらの様子を窺っている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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