よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 松崎をこの計画に引き入れようとする目論見は最初、失敗した。「いくら青谷先生の原稿を捜してもらった恩があるっていっても、こっちはちゃんと金払ってるし。そんなことに協力できるわけないでしょ。冷静に考えてよ」と鼻で笑って相手にされなかったが四日前、その態度が軟化した。
 いきなり「ちょっと話があるんですけど、そっち行っていいですか」とラインにメッセージが入った。それも夜の九時。いったい何だと思いつつ、特に用もなかったのでOKした。
 和樹は風呂に入った後だったので寝間着代わりの短パンにTシャツ姿で、取材帰りだという松崎はいつもと同じ半袖、半ズボンのジャージで事務所のソファに腰掛けた。
「ヤクザを取材してると、いつも同類に間違われるんですよね〜」
 口調は軽いが、松崎の表情はどんよりと暗い。二人だけで、ということだったから事務所には他に誰もいない。松崎は「取材で大阪に行ってて〜」とか「ヤクザのしのぎで海産物ってけっこうでかくて〜」と関係のない話ばかりしてくる。
「で、知り合いのヤクザと昼飯とか食ってて……」
 松崎はいったん言葉を切った。
「わりと付き合い長い奴なんですけど、そいつの知り合いが有名な作家に頼まれて女を殺そうとしたとか言い出して……」
 和樹はゴクリと唾を飲み込んだ。
「事故にみせかけて殺すつもりが、女は怪我(けが)をしただけで死ななくて、止(とど)めをさそうとしたのに、女が怪我したって聞いた作家がもうそれぐらいでいいって言い出したって。素人は肝心なトコでビビる、けどチョロい仕事だったって知り合いが話してたって……」
 松崎は上目遣いに和樹を見た。
「聞いても名前とか教えてもらえなかったけど……まぁ……」
 言いたいことはわかる。というか素人にも想像はつく。作家が女を殺そうとするとか、そうそうあるわけがない。そして作家とのトラブルを抱えた先輩編集者が、一歩間違えば死んでいたような大怪我をしている。犯人は不明。青谷がヤクザを雇って河原を襲わせたのはほぼ確実だろう。……証拠はないが。
「俺としては、勘弁してほしいっていうか、聞きたくなかったっていうか」
 そして「はあ〜っ」とため息をつく。
「本当かどうかわかんないし、確かめようないし、けど聞いちゃったし。俺どうしたらいいのって感じなんすよ……」
 セクハラは無視の松崎も、殺人未遂となるとそのヤクザ曰(いわ)く、ビビったのだ。そしてこっちの計画に全面協力することになった。
 指定されたビルの前でタクシーを降りる。夜の銀座なんて初めて来た。ここは年配のお金持ちが買い物する場所、というイメージだ。しかし夜遅い時間のせいか、華やかなホステスと客みたいな男女の組み合わせをちらほら見かける。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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