よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「もうすぐくるって」
 伝えると、三井と徳広の顔が引き締まった。白雄はマスクとサングラスをかける。そして五分もしないうちに、ビルから松崎が出てきた。ふらつく着物姿の青谷を支えている。松崎はこっちにチラリと目配せした。会見の後は、各社の担当編集者たちと飲みに行くという話だったが、上手く青谷だけ店から連れ出してくれたようだ。
「先生、大丈夫ですか? 今から先生の大好きなJKパブに行きますからね。しっかりしてください。タクシー拾ってくるんで、ここで待っていてもらってもいいですか?」
「ふぁ〜俺はまだぁ、帰ら……ない」
 青谷は目がうつろで、呂律(ろれつ)も回っていない。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ待っててくださいね」
 松崎は青谷を植え込みに座らせ、傍(そば)を離れた。ターゲットが一人になったのを合図に徳広が和樹にスマホを向けた。
「はーい、カズリンでーす! ミッチーとくろりんも一緒だよ〜」
 徳広が三井と白雄を映し、そして和樹にレンズを戻してくる。
「三人で突撃インタビューのライブ配信やるよ〜。今晩もグダグダの酔っ払いにインタビューしてくからね〜。あっ、早くも酔っ払い発見!」
 和樹と白雄、三井は青谷に近づいた。
「こんにちは〜酔っ払ってますか〜」
 青谷はこちらを見回し「わしは……まだ酔っとらん。ヘネシーをロックでロックンロール……」と呟く。寒すぎる駄洒落(だじゃれ)だが、店ではおそらく大爆笑の嵐だったんだろう。
「俺ら、酔っ払いにインタビューしてるんだけど、おじさんはご機嫌だね。何かいいことあったの?」
 和樹の質問に「俺はぁ、川澄大賞を受賞したぁ」と青谷は叫び、首ががくんと前に傾いた。倒れそうになるのを白雄が背後から支える。そして少し体を引くと、凭(もた)れている青谷の顔が上を向いた。薄目を開いた顔が見える。
「……ああ、失敬、失敬。……少々酔っ払っていてね。……私は文学賞を受賞したのだよ。……川澄大賞って君、聞いたことはないかね?」
 酔っ払いを演じつつ、大御所「らしさ」は失わない。酔いつぶれた青谷を、白雄が上手く喋らせはじめた。
「えーっ、凄いですねぇ〜」
 和樹は棒読みの相槌を打つ。
「せっ、先生……何してるんですか」
 松崎が画面の外から青谷に声をかける。
「タクシーが掴まりました。JKパブ行きますよ」
「私は行かない」
「いやしかし……もう予約してありますし」
「気が変わった。君は帰りなさい」
「ですが、先生を置いていくわけには……」
「行かないと言ってるだろう!」
 青谷に怒鳴られ、松崎は困惑している。しかし動画にこのやり取りを入れておけば「酔いつぶれた作家を勝手においていった編集者」という非難から松崎は逃れられる。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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