よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 ギャラリーから「オッサン、最低」とか「さっきテレビで見た人なんだけど」とチラチラ聞こえてくる。
「あのーこれって生配信なんですよ〜あんまり言っちゃうとヤバくないですか?」
 薄目を開けた状態で、青谷は「はははははは」と笑った。いや、笑わせられた。
「いいのだ。私は川澄大賞作家になった。権威ある賞をとった男が、セクハラ男では情けない。だからみんなに謝りたい、罪を償いたいのだ」
 青谷が表情の消えた……薄目は開いているけれど、完全に寝ている顔で画面を見る。しかし、口ははっきりと動く。
「みんな、聞いて欲しい。私、青谷珀景はこれから謝罪する」
 そして威厳のある声が飛び出した。
「これまでセクハラ被害にあった……女性たちよ、私は深く悔い改める。君らの精神的な苦痛に対して、受賞作の印税を全て慰謝料として支払う。……弁護士を通じていくらでも納得のゆく金額を請求してくれ」
 だらしなく開いた口元で青谷は喋る。酔っ払わせた青谷にインタビューし、セクハラの告白&謝罪、そして慰謝料を払うという言質(げんち)を取るという計画は成功した。徳広は「セクハラをやった」と認める動画だけでも撮れれば……と言っていたが、白雄を使えば「言わせられる」のはわかっていた。それにこれは嘘じゃない。本当のことだ。後日、あれは酔った上での戯(ざ)れ言だと言い訳し完全否定されるかもしれないが「自白」の映像は残る。
 ギャラリーが「セクハラ作家だって」「マジでー」と勝手に青谷を撮影する。徳広を振り返ると、小さく頷いている。そろそろ撤退だ。
「私は酔っ払っていて、足が立たない。黒い服の男と、髪が突っ立った男よ、私を立たせてくれ」
 もう潮時なのに、白雄が青谷を喋らせる。白雄が青谷を立たせるから、三井も戸惑いながらも反対側で青谷を支えた。
「左へ行くぞ」
 宣言し、白雄が青谷を連れて行く。青谷が喋っていると思っている三井も、支えながら歩く。和樹は慌てて三人に近づいた。
「あのー俺ら、そろそろ次のインタビュー行きたいんだけど、おじさんどこ行くの?」
「私はこれから……法的な裁きを受けるために、警察に出頭するのだ」
 ちょっと待て!と内心思う。これまでの生配信でもう十分だ。警察には後日、個人的に行って欲しい。もう止めないと……と思っていると、がしっと肩を掴まれた。松崎だ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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