よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「……あの、もういいすよね。俺、センセ連れて帰りますよ」
「あ、うん」
「和樹くん!」
 徳広が駆け寄ってきた。
「あの三人、派出所に入っていっちゃうよ!」
 徳広はもう生配信をやめている。それなのに野次馬らしきギャラリーがスマホ片手に三人の後をついていく。
 三人が派出所前に立つと、警察官が出てきた。さっき三井を職質した人だ。異様な風体の三人を警戒したのか、表情が硬い。青谷は「警官さん、私は犯罪をおかしました。自首します」と高らかに宣言した。
「私は川澄大賞作家の青谷珀景です。これまでたくさんの女性にセクハラをしたので、その罪を懺悔しにやってきました。担当編集者への恐喝罪に殺人未遂もございます。それから昔、女性をレイプしました。しかし三十年ほど前なので、もう時効ですよね。私はまだ大学生でしたから」
 和樹は心臓がスッと冷たくなった。警察官が「撮るな!」とギャラリーに叫ぶ。白雄が青谷から手を離した。酔い潰れた青谷は、そのまましゃがみ込む。つられて座り込んだ三井の腕を掴み、白雄は走り出した。酔い潰れた青谷は、派出所の前で突っ伏している。ただの酔い潰れたオッサンだから、もう喋らない。喋れない。そこに松崎が入っていく。「この人は作家で、自分は担当編集者です。酔っ払っちゃって……」と警察官に謝り倒している。
 もといたビルの前に戻り、動画配信サイトを見てみた。ユーチューバーカズリンが「偶然」突撃質問した、川澄大賞作家「青谷珀景」の三分ほどのインタビュー動画は、徳広のドルオタ仲間にも視聴と拡散をお願いしたこともあり、どんどん再生回数があがっていく。
 しかし、それよりも倍のスピードで拡散するものがあった。ギャラリーの誰かが撮った動画、青谷が殺人未遂やレイプを告白する動画がSNSにアップされたのだ。
「……派出所前の動画が、トレンド入りしそうです。受賞直後で注目されてるし、余計ですかね……」
 三井が口元に手をあて、眉間に皺(しわ)を寄せる。
「俺たちが聞いていたのはセクハラだけど、本人が警察官に向かって昔レイプしたって喋ってたでしょ。三十年前とか、時効とか、妙にリアリティがあったよね。あれは本当なのかねえ」
 徳広が覗き込むスマホ画面では、ちょうどその場面が再生されている。和樹は白雄を見上げた。黒いマスクを引き下げ『ほんと』と唇が動く。
『青谷は忘れてる。けどね、された方は忘れない、一生』
 白雄の口元が笑った。
『今でも生き霊飛ばしてる。テレビに映るあいつの顔に向かって、しね、しねって凄い顔をしてるよ』
 そういやさ、と徳広がこちらを見た。
「前もさ、俺らが関わった事件で、犯人が自白したでしょ。その時も本当に殺してたんだよね。今回はお酒の力があったとは言え、青谷が勝手に自白して……俺らが関わると、どうしてみんな自白すんだろうね」
 疑惑の視線がこちらに向けられる。けど認められないし、認めない。視線を逸(そ)らし「……偶然だろ。良心の呵責(かしゃく)があったんじゃね?」と和樹は誤魔化した。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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