よみもの・連載

捜し物屋まやま

第二回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 計画は成功した。青谷へのジャッジは、動画を見た世間が下すだろう。自分が計画した通りになったはずなのに達成感はなく、酷く疲れた。
 四人そろってタクシーで事務所に戻る。途中で夜勤のポリさんからラインが入り『動画見ました。青谷珀景、作家としては知りませんが、人間としては終わりましたね』と書かれてあった。
 三井と徳広も帰るのが面倒になったというので、家のリビングに泊めた。夏だし、敷き布団さえあれば何とかなるなと思って準備していると、徳広はソファで横になって寝はじめた。メイクを落とした三井も、クッションを枕に上を向いて目を閉じる。もう午前四時、夜明けが近くなってきている。和樹も二人と同じ空間に寝転がった。白雄も交ざってくる。
 みんな眠りはじめたのに、和樹は眠れない。セクハラ野郎に一矢報いたいと思って計画したけれど、本当にアレでよかったんだろうか。けれどああしないと、青谷のやったことは永遠に表には出てこなくて、みんな泣き寝入りをする羽目になったはずだ。そして一歩間違えば死んでいたかもしれない河原のことを思えば、肉体的に傷つけられていないだけ、青谷はマシなのだ。
 これで河原と後輩の女の子は救われるだろうか。裁判で有利になるだろうか。今度は最悪のエンドルートを阻止できただろうか。
 ……結局、自分一人では何もできなかった。白雄の「見えて」「喋らせられる」能力をあてにした。けど悪いことには使っていない。それだけは確信する。白雄の能力で、目に見える、見えない被害者を、誰かを救えたはずだ。間違ったことには使っていない。
 胸に、黒い染みのように嫌な感触が残る。床でごろんと寝返りを打つと、白雄と目が合った。白雄も寝ていなかったのか、それとも目をさましたのかわからない。黒目がちの綺麗な目が、自分を見ている。
 白雄の指が伸びてきて、頬に触れる。まるで猫でもあやすように和樹の頬を撫(な)でてくる。
『おもしろかった』
 白雄の唇が動いた。
「面白くねーよ」
 ぼそりと返す。
『悪い奴だと、遠慮なくやれて楽しい』
「そう思ってんのは、お前だけだ」
『そう?』
 白雄は放っておいたら、暴走する。誰かが見ているぶんにはいいけど、一人で何かさせちゃいけない。けど、いつまで自分はこの男を監視していられるんだろう。
 ため息をつくと、またちょいちょいと頬をつつかれる。
『目、赤い。疲れてる顔だ』
 うっせ、と呟く。
『納得いかないならさ、小説を書けば?』
 和樹は白雄を見た。
『吉田のこと、小説の中で幸せにしたみたいに。不幸な子が思いきり幸せになって、悪い奴が思いきり不幸になる話を書けばいいんだよ』
 白雄はふっと笑った。
『どうせ作り物だけどね。和樹はそれがいいんだよね』
 こいつの口から出てくる言葉は毒だ。
「お前、黙れ」
 白雄は黙る。憂鬱に憂鬱が重なって、どんよりしたままようやく瞼(まぶた)が重たくなってきた。悪意の塊の傍らで、和樹はスッと目を閉じた。

(第二回 了)
(次回は4月19日アップ予定です)

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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