よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 前編

木原音瀬Narise Konohara

「なぁなぁ」
 無視した男が勝手に部屋へ入ってきて、ベッドのふちに腰掛ける。
「ちょっと調べてみたけどさ、はしかの感染力って半端ないぞ。すんげえ熱が出たら、タマもやられんだってさ。お前、大丈夫?」
 喋(しゃべ)るのを聞いているだけで具合の悪さが倍になる。スマホを握りしめたままベッドで横になり、毛布を頭からかぶった。「放っとけ」というアピールは伝わらず、毛布の上からユサユサと体を揺さぶられる。
「はしかでほぼ確定だろ。病院行けよ」
 返事はしない。
「はしかって病院行かなくても、自然に治んのかな?」
 鬱陶しさが極限に達し、シーツをはぐった。座っている和樹の手首を乱暴に掴(つか)む。
「「うるさい」」
 和樹の口を通して、声という形になる自分の言葉。意思。
「目、据わってんなあ。いつも以上に人相悪いぞ」
 その顔は、心配そうにじっとこちらを見下ろしている。
「「マジうるさい、死ね」」
「お前の口の悪さって、凶悪だよな」
 もっと言ってやろうと思ったのに、ブンッと腕を解(ほど)かれた。
「職場には俺が電話しといてやるよ。はしかみたいですってさ」
 和樹が部屋を出ていこうとする。自分でメールでも何でもすると言いたいが、呼び止める声は出せない。
 一人きりになると、急に静かになった。すぐ傍(そば)にそれの気配を感じた。視線を右に傾ける。……やっぱりいた。
 白髪の婆さんが枕元に立ち、ガラス玉のような目で自分を見下ろしている。コレがいつも傍にいるのは知っている。鬱陶しいので「視ない」ようにしているのに、体調が悪いとどうしても「視えて」しまう。
【うざいんだよ、ババア。消えろ】
 それは消えない。何を言われても響かない表情で、じっと自分を見ているだけ。乱暴で騒々しい足音が近付いてきて、ノックもなしに引き戸が大きく開いた。
「職場には連絡しといたからな」
 和樹には、この婆さんが見えない。だから「そこにいるの、誰だよ」と聞いてこない。そんな和樹の背後から、二つの顔がにょきにょきと出てきた。弁護士の徳広祐介(とくひろゆうすけ)と受付事務の三井走(みついかける)。こっちは生きている人間だ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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