よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 三井は自分と和樹でやっている「捜し物屋まやま」の受付と法律事務所の受付事務を兼任しているが、最近は法律事務所の仕事がメインになりつつある。最初に会った時は髪もぼさぼさで小汚く、翌日河原で死んでいても違和感ない悲壮感が全身から滲(にじ)み出していたが、最近はどこにでもいる、ぱっと見で印象に残らない普通の男になった。
「具合、大丈夫ですか? はしかって聞きましたけど」
 普通になった男が聞いてくる。面倒くさいが、小さく頷(うなず)いてみせた。
「僕は予防接種したんですよね。……そういえば和樹君は傍にいて大丈夫なの?」
「俺は四歳ぐらいの頃にやったんだよ。通ってた幼稚園で大流行してさ。白雄が幼稚園に来たのはその後だったから」
「まぁ、正しい抗体の獲得方法だね」
 徳広が相槌(あいづち)を打つ。下の階の弁護士事務所で働いているデブのアイドルオタクで、それ以外の何ものでもない。
「俺は小学生の時に弟からもらったけど、あんまり覚えてないんだよ。子どもの頃ってわりと軽くすむし」
 ドアの外、中までは入って来ずにそれぞれが勝手に喋る。
「ちょっと顔を見にきただけだから。長居しても何だし、お大事に」
 ひょいと徳広が会釈する。部外者の二人は帰っていき、和樹は「祐さんがお客さんからアイスを沢山もらったってこっちにもお裾分けで回ってきたんだけど、お前食う?」とビニール袋をガサガサと揺らした。
 今は腹も減っていないので首を横に振る。「欲しくなったら、ラインしてこい」と和樹は部屋のドアを閉めた。
 騒々しさが去り、再び婆さんと二人きりになる。額に手をあてると熱い。熱がぶり返している。だるい。自分の周囲、すべてなにもかも鬱陶しい。
【なんでそこにいるんだよ】
 心の中で話しかける。聞こえているはずなのに、婆さんは無視する。
【罪滅ぼしのつもりか? くそババア】
 猛烈な吐き気が込み上げてくる。婆さんの仕業としか思えない。全身のだるさだけだったのに、最悪のオプションだ。文句をぶつける前に耐えられなくなり、ゴミ箱を抱え込んで吐いた。逆流した胃酸で、口の中が酸っぱくなる。気持ち悪い。
【マジ死ね、ババア】
 悪態をつくと同時に気づく。婆さん、とっくの昔に死んでた。死んでるのに、死ねはない。じゃあ地獄へ行けか?

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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