よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 目眩(めまい)がして腰掛けてもいられなくなり、ベッドに突っ伏した。ラインにメッセージが入る。和樹かと思ったら、同じマッサージ店で働く従業員の植草由味(うえくさゆみ)からだった。先月、中途採用で入ってきた女で、自分よりも二つ年上の二十七歳。顔の作りは平均的だが、肌が汚い。この前、うっかり植草の鞄(かばん)に触ったら、男性アイドルの顔が視えた。
 男性アイドルが好きで、好き過ぎて生き霊を飛ばしながら、ソファでごろごろしている。アイドルの動画を見て、ニヤニヤしながら菓子を食ってる顔は下水並みに汚い。先週、そんな女に「間山さんて、綺麗(きれい)な顔をしてるね」と言われた。好意の片鱗(へんりん)が飛んでくるのが視え、猛烈に気持ち悪かった。
『はしかで休むって店長に聞きました。あれってかなりしんどいよね。大丈夫?』
 この時間は仕事中のはずだ。就業中の個人的なラインは禁止されているのに、こういうどうでもいいメッセージを送るために植草は平気で規則を破る。
 自分は職場の全員とライン交換をしている。連絡事項は主(おも)にラインでやりとりしているからだ。けれど個人的なメッセージが送られてくることは殆(ほとん)どない。
 みんな間山白雄がどういう人間か、ユーモアもなく素っ気ない人だと知っている。一緒にいて楽しくない、面白くない。最初は近付いてこようとした同僚も、しばらくすると必要以上に踏み込んで来なくなった。
 普段ならこういうタイプは放置しておくが、吐き気は止まらないし、全身が痛くなってきた。だから『大丈夫じゃない。辛(つら)い』とレスした。
『仕事終わったら、お見舞いに行こうか?何か欲しいものある?』
 予想通り、食いついてきた。
『辛いから、一緒に死んで』
 既読がついたのに、返事がない。今、植草はどんな顔をしているんだろう。想像すると笑える。今頃、無理心中のお誘いに動揺し、ラインをしてしまったことを後悔しているに違いない。どんな返事がくるのか楽しみだ。『そんなこと言わないで』と真面目に返すか『冗談でしょ』とかわすか、それとも華麗に既読スルー? 悩め、悩め。人の具合が悪い時につけこんで、親切アピールのメッセージを送ってきたお前が悪い。お前が、お前が!
 心臓がズキリと痛む。ズキンズキンと疼(うず)くので、スマホをぎゅっと握りしめて背中を丸めた。婆さんは気に入らないことがあると、すぐに実の孫を痛めつける。生まれる前には「堕(お)ろせ」と言い、生まれてきてからは「声」を奪った。
 白雄は亡くなった母親の思念を通して見た景色を、ゆっくりと反芻(はんすう)した。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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