よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 その頃、和樹の母親は十歳年上の不動産会社の社長と知り合い、交際を申し込まれた。最初、和樹の母親は相手を社長とは言わず、年上の人に交際を申し込まれているとだけ母親に打ち明けた。母親は和樹の母親の相談を、この時はまだ親身になって聞いていた。
「子供の有無や年齢は関係ないわよ。要はあなたがどうしたいかだと思う。いつか和樹くんだって成人して傍を離れていくのよ。あなたはあなたの幸せを考えるべきだわ」
 和樹の母親はキッチンにある白雄の椅子で話をしていたのか、座ると勝手にその時の光景が視えてきた。和樹の母親は本当に悩んでいたし、母親も真剣に意見していた。
 和樹の母親はアドバイスを素直に受け取り、相手の男と付き合い始めた。和樹は最初のうちこそ人見知りしていたが、根が単純なので、優しくて色々と買ってくれる父親候補の男にすぐになついた。
 和樹の母親は、男との結婚が決まってから、初めて相手が不動産会社の社長であることを母親に告げた。傍にいた白雄は、和樹の母親の結婚を祝福しようとしていた母親の顔が「会社の社長」という肩書きを聞いた途端、一変するのを見た。
「おめでとう」
 笑顔ではき出される言葉と共に、無数の毒が母親から放たれた。
【社長って、それって玉の輿(こし)じゃない】
【私に自慢しているの? それとも幸せアピール?】
【子持ちのくせに、どうやってそんな男を捕まえたの?】
【生活の心配をしなくていいなんて、羨(うらや)ましい】
【私たち同じだったじゃない】
【どうしてあなただけ幸せになるの?】
【どうしてあんただけ】
【どうしておまえだけ】
【羨ましい】
【悔しい】
【顔も見たくない】
【幸せにならなければいいのに】
【不幸になればいいのに】
 母親の顔がみるみる真っ黒になっていくのを、不思議な気持ちで見ていた。そして母親の顔はいつまでも真っ黒のままで晴れることなく、表情さえよくわからなくなってきた。
 和樹は引っ越すことになったが、仲のいい友達がいるのに転校させるのはかわいそうだという義父の配慮から、今までと同じ学区内のマンションに移ることになった。
 和樹は「新しい家に遊びにこいよ」と言ってるし、そこは子供の足で歩いて行ける距離。自分は特に変化は感じなかったが、母親は違っていた。新しいマンションに移る幸せな母子を羨み、不幸になれという強い念を飛ばしていた。ただそれを跳ね返すぐらい和樹の母親の……好きな人と一緒になれることや、子供に何不自由ない教育を受けさせてあげられそうだという喜びは大きかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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