よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 前編

木原音瀬Narise Konohara

 病院に向かう車の中で、母親が死んだような気がした。何となくわかった。病院に行くと、やっぱり死んでいた。雨でスリップした車に撥(は)ねられたんだと警察の人が教えてくれた。
 死んだ肉体の傍らに、母親は立っていた。自分が死んだことに気づいていないらしく、真っ黒な顔で【あの女はずるい】【一人だけ幸せになって】と相変わらず呪詛(じゅそ)のように吐き散らかしていた。
 母親は一人娘で、祖母も他界。葬式は、母親の従姉妹(いとこ)が取り仕切ってくれたが、自分を見下ろす顔は黒かった。昔から母親とそりが合わなかったようで、残された……しかも不倫でできた子を疎ましがっていた。
 葬式には、和樹とその母親、そして新しく和樹の父親になった男、間山が参列した。間山は大人の男にしては珍しく白かった。黒い時もあるだろうが、その気配を感じさせなかった。
 白い男で社長。お金を持っているなら、自分の面倒もみてくれないだろうか。自分の息子になった子供の親友ということで、引き取ってくれないだろうか。今ならとんでもないことだとわかるが、当時の自分はそれが大それたことだとは思わなかった。
 母親は自らの棺桶の横で、真っ黒な顔でぶつぶつと和樹の母親に呪いの言葉を吐き続けている。すぐそこにいるから、うんざりはしても寂しくはない。
 しかし引き取られる為(ため)には「かわいそうな子」にならないといけない。しっかりした子よりも、かわいそうな子の方がきっと同情される。だから悲しくないのに、涙を流してみた。泣いて泣いて、和樹に抱きついて離れない。白雄の泣き声と、本人が泣いている声が一緒になって、和樹は大泣きした。そんな和樹を、間山はぐっと口を引き結んだ、もらい泣きしそうな顔で見下ろしていた。
 葬式が終わっても、白雄は和樹から離れなかった。そして葬祭会館の人にもらった紙に「おばさんに、あなたはしせつに行くのよって言われた。僕はやだ。しらないとこに行きたくない。和樹とはなれたくない」と書いて、和樹の母親と間山に見せた。和樹の母親は息をのみ、そして目に涙をあふれさせた。
「白雄くんを、施設には行かせないわ」
 和樹の母親は強く抱き締めてくれた。あとは和樹に「白雄と一緒に暮らしたい」と言わせればいい。白い男、間山はきっと「君も一緒に暮らすかい」と言って、自分を引き取ってくれるに違いない。
「ねえ、白雄も一緒に暮らしちゃ駄目?」
 和樹にそう言わせたいと思っていた。けれど自分は和樹の母親に抱き締められていて、和樹には触れていなかった。
「俺、白雄も一緒がいい。だって白雄、喋れないんだよ。喋れないのに一人になったら、すごく困るよ。俺が傍にいないといけないんだよ。俺は白雄のことわかってるから、俺がいないと駄目なんだよ」
 和樹は真っ白で、キラキラしていた。間山は和樹と、和樹の母親と、白雄を順番に見て「えっと……」と困った顔をしている。和樹は間山の喪服の裾をそっと掴んだ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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