よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 窓越しの日差しは、濃いオレンジ色になっている。いつの間にか寝てしまっていた。隣に和樹(かずき)の姿もない。汗で全身がぐっしょりと濡れていて、首筋に触れると指がヌルリと滑った。体はだるいままだが、とにかく汗を流したい。
 相変わらず自分の傍(そば)には婆さんがいる。学生の頃は真っ黒な母親も傍にいたが、月日が経つにつれてどんどんその姿はぼやけ、いつの間にか消えていた。
 廊下へ出ると、事務所から話し声が聞こえた。捜し物屋に来た客だろうか。この状態で、来た客の「捜し物」はできない。自分の体調が悪い間は休業するはずだ。
 捜し物は和樹との共同作業という形を取っているが、自分の霊視がないと成り立たない。持ち物に触れて過去を読み取る、もしくは依頼人の背後にいる「誰か」に聞いて、それを和樹の口を通じて伝える。突き詰めて考えると腹が立つので無視しているが、婆さんのイタコの仕事をイレギュラーな形で継承していると言えなくもなかった。
「お前さぁ、はしかってやってる?」
 和樹が誰かに聞いている。
「いきなり何だよ」
 相手の声に聞き覚えがあった。
「今、白雄(しお)がはしかでダウンしててさ。で、この事務所ウイルス蔓延(まんえん)してんの」
「マ〜ジか。てかそういうことは先に言え。俺はやってたはずだからいいけどさぁ」
「マ〜ジか」のイントネーションで思い出す。中学の時にクラスメイトだった塩原(しおばら)だ。
「しばらく休業って言ったのに、お前が勝手にずかずか入ってきたんじゃん」
 進学した中学では三年間クラス替えがなかったので、和樹と白雄、塩原はよくつるんでいた。正確に言えば、あともう二人よく群れる奴らがいて、出し物やグループ学習なんかがあるたびに、五人で固まっていた。
 クラスのポジション的には「普通」に位置していた自分たちのグループ。派手だったり、オタクだったりと特徴があるわけじゃない。リーダー的な奴すらいなくて、お笑い番組とゲームの話で盛り上がるゆるい繋(つな)がりだった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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