よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 一人だと悪目立ちするし、和樹がそいつらとつるみはじめたから一緒にいるだけ。他のメンバーに思い入れはなかった。グループの奴らにとって自分は「和樹にくっついている、喋(しゃべ)れない弟」という、いてもいなくても同じ、鞄(かばん)についているマスコットぐらいの注意しか払われていなかった。
 小学校の頃は「人と違う」自分に対する虐(いじ)めは殆(ほとん)どなかった。幼稚園の時からの顔見知りが多かったので、シングルマザーの母親が事故で亡くなり、施設に行く寸前に再婚した和樹の家に引き取られたことはみんな知っていた。それに自分が「話せないこと」「実の親がいないこと」を誰かにからかわれようものなら、和樹が真っ赤な顔をして飛びかかっていった。
 中学に上がると、状況が変化した。今までと違い、いくつかの小学校から子供が集まってくる。事情を知らないので、自分が「声を出せない」ことや同じクラスに「同い年の顔が全く似ていない兄」がいることを不思議に思う子が出てきて、些細(ささい)な違和感をとらえて嫌がらせをしてくるようになった。けれどそれも、和樹が傍にいる間は陰で悪口を飛ばす程度だった。
 中学に入学して三ヶ月、七月の初めだった。その日、和樹はものもらいにかかったのか右目の瞼(まぶた)が腫れ上がり、病院で受診してから登校することになったので、白雄は一人先に学校へ行った。
 三時間目の休み時間、トイレから戻ってくると教室の空気がいつもと違っていた。緊張しているような、落ち着きがないような。どうしたんだろうと思いつつ椅子に座り、それとほぼ同時に始業のチャイムが鳴り響いた。
 机から国語の教科書を取り出す。その表紙には黒いマジックで「キモい、しね」と書かれていた。見た瞬間、ゾワッと鳥肌が立った。はっきりとした悪意……興奮する。それに和樹がいない時を狙ってやってくるあたり、虐め方を心得ている。
 書かれた文字に触れると、感情が流れ込んできた。落書きの文字ほどの強い悪意はない。檻(おり)の中にいる犬に、石を投げつけるような感覚。弱いから、虐める。自分は安全だから、やってみる。面白そうだから。どういう顔をするのか見たいから。そういう感じだった。
 少し集中すると、誰が書いたのか視えた。いつも休み時間に大声で喋っている住吉(すみよし)だ。男の住吉と仁木(にき)、女の荒瀬(あらせ)と山村(やまむら)は、四人でいつもつるんでいる。男は二人ともバスケ部で、女二人は顔がかわいい。クラスの位置的にはカーストの上にいる。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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