よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 住吉が教科書を取り出し落書きするのを、荒瀬と山村は「カワイソウ」とか「やめなよ〜」と言いつつ笑いながら見ている。
「間山(まやま)弟ってさ、喋れないからって授業でもあてられないの、ずるくない?」
 山村が長い髪の毛に指を絡め、呟(つぶや)く。
「学校来なきゃいいんだよ。そしたらコンプレックスとか感じないですむのにね」
 荒瀬が上から目線で意見する。
「あいつってさ、人間としてジャンクじゃん。生きてる価値なくね? 死ねばいいと思うんだよ」
 住吉の暴言に、山村は「別に生きててもいいけど〜このクラスに必要ないっていうかぁ」とくすくす笑っていた。
 自分は何もしていない。先に手を出してきたのは向こうの方。ワクワクしてきた。自分には「虐められたから」という立派な理由ができた。
 落書きされた教科書を手に席を立つ。国語教師の東野(ひがしの)が「間山、どうした?」と首を傾(かし)げる。教壇に近付き、落書きされた国語の教科書を差し出した途端、東野の表情が強張(こわば)った。
「これはどうしたんだ?」
 聞かれたので、チョークを手に取り黒板に大きな字で書いた。
『教科書に「キモい、しね」と落書きされました。書いたのは住吉大輝(だいき)君です』
 教室がざわざわと騒ぎ出す。
「てめえ、嘘つくなよ!」
 名指しされた住吉が、大声で怒鳴る。ギャアギャア騒ぎながら落書きしていたし、クラスの大半の生徒に見られていたのに「嘘」だと断言する。
「どこに俺が書いたってショーコがあんだよ! ショーコだせよ、ショーコ。先生、そいつ頭がおかしいんじゃねーの? 落書きもさぁ、自作自演だろ。えっ、それって逆に俺が被害者じゃん」
 住吉は堂々としている。そこには人を虐め慣れた人間の余裕があった。何かをやっても、疑われても「認めなければ」罰せられないと経験で知っている。そんな奴に対抗するため、再び黒板に向かった。
『住吉君は、小石町のコンビニでモバイルバッテリーを万引きしました』
 書き終えて振り返ると、クラスメイトや東野は呆気にとられていた。住吉が青ざめている。そうだろう、万引きの件は誰にも話していないからだ。店長に捕まり、泣いて謝って学校への通報はされなかったが、駆けつけてきた父親に家に帰ってから何度も殴られていた。
「いいっ、いい加減なことばっか書くんじゃねえよっ」
 さっきまで堂々と嘘をついていた住吉が、声を震わせている。……楽しい。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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