よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

『住吉君は、小学生の頃から万引きが大好きです』
 追加情報も加えてみる。捕まったのは初めてだが、常習犯。しかも当時、虐めていた子にも、万引きをするよう脅していた。住吉はとうとう席から立ち上がり、駆け寄ってきた。黒板消しを掴(つか)み、せっかく書いた「事実」を鬼の形相で消していく。
 虐めっ子の顔には、いつも黒いもやがかかっている。父親は暴力的で、母親との仲は冷え切っている。母親は父親に似ている息子を嫌い、無関心。体はどこも悪くない健康体なのに、住吉は「かわいそう」な子供だ。その不満のはけ口が、虐めになっている。
 ああ、もっとクラスのみんなに教えたい。何か住吉って、ヤバいんじゃないの? そういう空気が流れている。ゲスな興味。期待に応えたい。こいつは色々……もっと色々やらかしている。
 書こうとしたのに、住吉に腕を掴まれた。怒りが滲(にじ)む、強い圧迫感。……触った。こいつ、人に触ってきた。
「「間山、おまえキモいんだよ」」
 住吉に、大声で叫ばせた。
「「教科書に落書きしたぐらいで騒ぐんじゃねえよ。お前なんか生きてても意味ないんだから、死ね、自殺しろ!」」
 教師とクラスメイト全員が見ている前で、自白させた。
「何言ってるんだ!」
 東野に叱られ、住吉は「ちっ、違う」と小さく震えだした。
「俺……じゃない。俺が言ったんじゃない……」
 うっかりボロを出してしまった張本人。三人の仲間は誰も助けようとしない。そんなことをしたら、自分まで巻き込まれるとわかっているのだ。けどこちらからしたら、お前らも同罪だ。
「「昨日さぁ、荒瀬とヤッたんだよね。めっちゃ気持ちよかったわ」」
 自然と浮かれた口調になる。住吉は慌てて「勝手に喋る自分のクチ」を両手で押さえた。クラスメイトは一瞬息をのみ、そしてひそひそと小声で話し始める。中学生同士のセックスは風紀上大問題で、東野は口を歪め、右手で顔を押さえている。
 しかし一番の問題は住吉が山村と付き合っているということだった。
 彼氏に女友達との浮気を堂々と告白された山村が、目をカッと見開いたまま荒瀬を振り返る。荒瀬は「そっ、そんなことしてないっ」と首を横に振った。ついでに言うなら、仁木は荒瀬のことを好きで、住吉に幾度となく恋愛相談をしていた。
 暴露された事実で、つるんでいた四人全員の顔が真っ黒になる。繋がりが崩壊する音。奴らの疑心暗鬼と、クラスメイトのザワザワした疑惑で教室は飽和していく。
「間山はいったん席に戻れ。住吉、お前は俺と一緒に来い」
 東野はこの場を収拾しようとしている。こんなに楽しいのに。楽しくてたまらないのに。だから『住吉君はやりチンです』と黒板に書いた。
「間山、止めろ!」
 東野が怒る。
「ああああああっ」
 大声で叫ぶ住吉に、胸ぐらを掴まれた。殴られる気配。少し後ずさって顔を右に逸(そ)らした。それでも拳の先が頬にゴンとあたる。教師の前での暴力行為。その瞬間「あ、こいつ終わった」と思った。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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