よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 自分と住吉は教室から連れ出され、別々に事情を聞かれた。四時間目の前に教室に戻れたが、住吉はおらず、荒瀬は早退していた。
 昼休み、塩原に「お前、大丈夫?」と聞かれた。その顔には、薄く黒いもやがかかっていて……自分のことを気味悪がっているのを感じた。
 午後になると、和樹が学校に出てきて、「今日、何か休んでる奴、多くね?」と首を傾げた。右目はやっぱりものもらいだったらしく眼帯をしていた。
 午前中のことは黙っていたのに、塩原が自分への虐めとその顛末(てんまつ)を和樹に喋った。「住吉が勝手にベラベラ喋っていた」と話されたせいで、自分の仕業だと和樹に気づかれ、その日の夜は大喧嘩になった。
「お前がやったんだろ! 住吉の口使って喋らせたんだろ。口使っていいのは、俺だけって言ったじゃん!」
 二人の部屋で、和樹は声を尖(とが)らせた。唇を読めるけれど完全じゃない和樹に、誤読で聞き返されるのが面倒でその腕を掴んだ。
「「あいつらはさ、俺のことずっと虐めたかったんだよ。チャンスを狙ってたんだ。今日は和樹がいないって知って、しかけてきたんだ。ずるいじゃん」」
 口を使って喋られることに、和樹は慣れている。だから言い訳を口にしながら、言わせている本人を睨(にら)みつけてくる。
「「俺は何にも悪くない。先に嫌なことをしてきたのはあっちだし。教科書に落書きなんてされなかったら、みんなの前で虐めの告白なんてさせなかったよ」」
「嘘つけ!」
 言葉に、胸をドンと突かれた気がした。
「俺、知ってるからな。お前、メチャクチャせーかく悪いって。そりゃさ、嫌がらせされたら誰だって仕返ししたくなるけど、お前はキツいんだよ! 何倍にもして返すじゃん! 塩原言ってたぞ。万引きしたのバラされた上に、クラスの子とヤッたとか言い始めて、もう意味わかんなかったって」
「「だって、本当のことだよ。和樹、知ってるよね。俺が色々視えるって。視たくないのに、視えちゃったんだよ」」
「視えたって言わなきゃいいだろ! お前が虐められたことと、あいつが万引きしたとか、同級生とヤッてる、ヤッってねーってのは関係ないじゃん」
 確かにそうだ。
「お前、幼稚園の時から何にも変わってねーんだよ!」
 和樹がいきなり蹴ってきて、踵(かかと)が腹に入った。痛い。
「俺はなぁ、お前がくっそ意地悪いことしてるのを見てると、胸糞(むなくそ)悪くなんだよ!」
 それは和樹の気持ちだ。自分は違う。悪い奴らが、優越感に浸っていたあいつらの顔が、悪事を暴露されて後悔と嫌悪に歪む様を見ているのは楽しかった。そう、楽しいのだ。けれど思ったまま正直に口にすると、和樹が怒るのもわかっていた。
「「ごめん」」
 仕方ないから謝った。これ以上怒られたくないし、喧嘩もしたくない。和樹は、眼帯で覆われていない左目をぐーっと細めた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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