よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 放っておいても二人はいずれ別れた。そこをあえて「弟が彼女を奪った」という形にしてみた。大好きな彼女を幼なじみ、且(か)つ弟である男に取られる。大事なものを奪われたらどんな反応を示すか、怒るか、泣くか……和樹がどういう黒さを発揮するか、知りたい欲求にあらがえなかった。
 白雄が好きだと告白すると、和樹にうんざりしていた彼女は簡単になびいてきた。兄から弟に乗り換えるという外聞の悪さよりも、かっこいい顔の彼氏という利点を取った。
 付き合うことになった翌日、さっそく和樹に話した。最初、信じなかった。けれどしつこく繰り返しているうちに「彼女に聞いてみるわ」と和樹は電話した。
 その彼女に「ごめんなさい。白雄君を好きになって」と言われて、ようやく弟に彼女を奪われたのだと悟った。
 真っ白だった和樹が一瞬で、面白いほど真っ黒になった。黒いもやが、燃え上がるほど大きくなる。凄い。
 そして真っ黒なまま「一人になりたい」とリビングを出ていった。後を追いかけて和樹の部屋に入る。……高校に入学すると同時に、自分たちは個室をもらい、部屋は分かれていた。
 黒いもやに包まれている和樹の、電気が走るようにピリピリしている腕を掴んだ。怒り、悲しみ、嫉妬……自分に向けられる激しい感情にくらくらする。……吐きそうなのに、楽しい。
「「ごめんね。和樹の彼女ってわかってたけど、好きになっちゃったんだ。どうしようもなかったんだよ」」
 黒くて顔も見えない和樹に、言い訳を語らせる。
「「和樹の彼女だし、ずっと黙ってるつもりだったんだ。そしたら彼女が俺のことが気になるって言ってくれた。俺は喋れないよって伝えたけど、それはわかってるって」」
 黒い顔の、口元が歪んだのがわかる。更に黒が増した。もう口を使われたくないのか振り払おうとしてくる。
「「彼女、和樹のことを嫌いになったわけじゃないよ。ただ俺の方をもっと好きになっただけなんだ」」
「いい加減、手え離せよっ!」
 悲鳴に似た叫び声。
「「和樹は怒っちゃ駄目だよ。付き合ってたのに別れるとか、普通にあることだし。秘密にしてたらずるいけど、俺も彼女もちゃんと、正直に和樹に話してる。これで怒ったら、和樹が悪者だよ。だってどうしようもないよね。彼女が和樹よりも俺を好きになっちゃったのは、仕方のないことだよね」」
「いい加減、黙れお前!」
 逃げる和樹の上に覆い被(かぶ)さる。高校にあがってから自分たちは顕著に体格差が出てきた。和樹は一六〇センチから背が伸びず、自分は一八〇センチを超えた。背の分だけ体重もあるので、押さえ込める。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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