よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 真っ黒なもやと和樹の気配にうっとりしながら「「彼女は白雄が好きだから」」と言わせた。絶望させる言葉を、何度も何度も「自分の口」で反芻(はんすう)させられて、和樹の感情は黒く暴れ回る。
 とうとう子供みたいに声をあげてワンワン泣き出した。
「嫌がらせすんなっ!」
「「違うよ。俺は和樹にわかってほしくて……」」
「どう考えたって、こんなん嫌がらせだろ!」
 鼻水垂らしながら、大泣きしていた和樹から、不意に黒いのがスーッと消えていった。すごく面白くてゾクゾクしたのに、お祭りが終わった後のような虚(むな)しさがやってくる。
「「彼女は俺のこと好きだって」」
 そう言わせても、もう黒くならない。
「……お前、彼女のこと好きじゃないだろ」
 ぽつんと言葉が落ちた。
「俺に嫌がらせしてるだけだろ」
「「違……」」
 ドカッと腹に肘(ひじ)を入れられ、息が止まった。腹を抱えて横になる。じくじくした痛みの中、見上げると泣きすぎて赤くなった目があった。
「お前、誰のことも好きじゃないだろ」
 和樹はズッと洟(はな)をすすった。
「お前は意地が悪くて、駄目で、怖い奴だよ。それでかわいそうな奴だ。ずっとそう思ってた。だから俺は一緒にいたんだ」
 ……声は、ない。和樹が触らせてくれないから、ない。
「ヘラヘラ笑ってんじゃねえよ! 怒れ!」
 投げつけられたゴミ箱が、頭に直撃する。痛い。ゴミが散乱する。続けて向こうずねを蹴られた。確実に痛いところを狙ってきて、容赦がない。
 和樹の暴力は止まらず、我慢が限界を超えて蹴り返した。まともに反撃したのは一度だけなのに、三倍になって返ってきた。頭がカッとして、互いに手加減なしに蹴る、殴るの大喧嘩になった。部屋の中はメチャクチャ。養父母の制止の声も効かない。最終的に養母にバケツの水をぶっかけられ、部屋の中が水浸しになって一時休戦した。
 それから和樹はまともに口をきいてくれなくなった上に、徹底的にこっちを避けてきた。携帯メールも無視された上に、朝は先にご飯を食べて学校に行く。休み時間も教室から出ていく。放課後もどこにもいなくて、夜遅く帰ってきたと思ったら、部屋にこもりきりになった。
 養母にも相談してみたが「私が聞いても何も言わないのよ。しばらく様子を見てみましょう」と言われ、何の解決にもならなかった。仕方ないから、謝罪の手紙を書いてドアの隙間から和樹の部屋の中につっこんだ。返されなかったし、読んではいるようなのに、それに対する反応はなかった。
 兄弟になってからこれほど和樹に避けられたのは初めてで、つまらなかった。何もかもつまらない。勉強、食事、生きていること、世界中の全てがつまらない。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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