よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 黒い和樹を見たかった。だから彼女を奪ったけど、何となく……すぐに許してもらえそうな気がしていた。その思惑が外れた今、怒っている和樹がどうやったら許してくれるのか、口先だけでも、形だけでも謝る以外の方法がわからなかった。
 喧嘩して二週間目。夜中に目がさめ、喉が渇いて廊下に出ると、奥にあるキッチンが明るかった。誰か起きている。 
「いい加減にしなさい、和樹」
 養母の怒った声が聞こえた。
「こそこそ逃げ回ってないで、白雄とちゃんと話をしなさい」
 ゴクリと唾を飲み込んだ。
「絶対に嫌だ」
「話をしないと、相手の気持ちはわからないでしょう」
「うるさいなあ。あいつの顔、見たくないって言ってんじゃん」
 キッチンに行って、色々と言い訳したい。けれど今あそこに顔を出したところで、和樹は相手にしてくれない気がする。
「……じゃあ白雄に、せめてご飯を食べるように言ってちょうだい」
 和樹の返事はない。
「あの子、ろくに食べないのよ。お腹は空いてないって言うけど、痩せてきて顔色も悪いし、心配なの」
 廊下に出てきた和樹と目が合った。すると『しまった』みたいな顔をして、自分の部屋に飛び込んでいった。
 和樹と喧嘩して三週間目。学校から帰る途中で気分が悪くなって公園のベンチに座っていたら、和樹から奪い取った彼女が歩いてきた。……中学生の時に付き合っていた大学生の男と二人で。
 木陰になっていたせいか、彼女はこちらに気づかなかった。和樹のことにかかりきりで彼女への連絡を放置していたら、昔の男とよりを戻したらしい。……これは使えると直感した。自分が彼女に逃げられた「かわいそうな男」になれば、和樹に同情してもらえたら、仲直りできるかもしれない。
『彼女に振られた。俺よりも、中学の時に付き合ってた男がいいって』
 紙に書いて和樹の部屋のドアに挟んだ。
 その翌々日。天気のいい日で、昼休みに校舎の屋上にあがり、日陰でぼんやり座っていたら、和樹の姿が見えた。こっちに近付いてくる。慌てて立ち上がり、駆け寄ると和樹が何かを勢いよく突き出してきた。……購買で売っているコロッケパンだ。
「食え」
 よくわからないまま受け取り、立ったままバリッと袋を破いてかぶりつく。口に入れると、猛烈な空腹感に襲われて五口ぐらいで食べた。そういえば昼を食ってなかった。続けてメロンパンも差し出されて、それもあっという間に食べ尽くした。
 そんな自分を見て、和樹がフッと息をついた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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