よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「彼女、お前を振ってないって言ってたぞ。連絡しても何のレスもないから、きっと振られたんだろうと思ったって。けど前の彼氏ともっかい付き合いはじめたのは本当だってさ」
 ……まさかあの同情メモの内容を、和樹が彼女本人に確認するとは思わなかった。 
「女の子ってよくわかんねー生き物だな」
 ってか、と続ける。
「俺からお前、それから元彼って、二、三週間でコロコロ彼氏を代えるとか、ついてけないわ」
 触れるほど近くにはこなくても、こっちを見てくれているから、口パクで喋った。
【和樹にあの子はふさわしくない】
「ふさわしいとかふさわしくないとか、意味わからん」
【俺は和樹が大事だから】
「お前の大事は、嫌がらせして人のメンタルたこ殴りにすることかよ。ほんと頭おかしいわ」
 まだ、和樹の心には傷つけたしこりがある。
【ごめんなさい】
 自分のやったことを、反省はしてない。けど後悔してる。和樹がこんなに怒って喋ってくれなくなるなら、もう二度と黒くしようとしたりしない。絶対に。
「……俺も悪かったわ」
 和樹がぽつんと呟いた。
「いくらムカついたとはいえ、色々言い過ぎた」
 歩み寄りが見える。だから咄嗟(とっさ)に【俺のこと、捨てないで】と口が動いた。和樹が黙り込み「捨てるも捨てないも、俺ら兄弟じゃん」とぼそりと呟く。許されたと感じた瞬間、目の前の体を抱き締めていた。和樹自身もホッとしているのが伝わってくる。
「とりあえずお前、飯食え。意地くそ悪くて図太いくせに、変なトコで繊細になってんじゃねーよ」
 和樹はハーッとため息をついた。
 ……高校の時の彼女と別れて以降、和樹が誰かと付き合ったことはない。持ち物から読み取ったり、憑(つ)いてる人に聞いても気配はなし。感じのいい子がいたら、好意のようなものが浮かぶことはあるが、すぐに消えたり薄くなったりした。何となく、相手に踏み込むことを躊躇(ためら)っている……ようにも感じた。それでいい。自分たちの間に、無神経で無遠慮な他人に入ってこられたくない。
 婆さんは、ずっと見ていた。和樹の彼女を奪った時も、和樹が絶望していた時も、いつもいつも生け贄(にえ)にされた男を、何も言わず……ただ見ていた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

Back number