よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

 気づくと、自分の周りから川も婆さんも消えていた。ただただ灰色の景色。そこに細く小さな光が差している。道しるべもないので、仕方なくそちらに歩いた。それはどんどん大きくなって、覚えのある明るさになった。
「白雄?」
 大泣きしていた高校生じゃない……もう大人になった顔の和樹が、自分を見下ろしている。
「わかる?」
 小さく頷(うなず)く。するとホッとした表情で息をついた。
「お前、廊下で死体みたいに転がっててギョッとしたわ。そういやお前、覚えてるか? 中学の時に仲良かった塩原。あいつが仕事の依頼できてて、ちょうど帰るとこだったんだけど、車で来てるからって一緒に病院まで運んでくれたんだよ。祐(ゆう)さんも三井(みつい)っちもいないし、意識のないお前はでかいし重いしさあ」
 なに一つ覚えていない。周囲はカーテンで仕切られた、見覚えのない空間。ここは病室だろうか。それにしてはベッドが酷く狭い。処置室のような場所? 体を動かすと、右腕にチクンと鈍い痛みが走った。腕に点滴の針が刺さり、そのチューブは頭の上にあるボトルに繋がっている。薬液がポタポタとリズミカルに落ちているのが見えた。
「塩原、爺さんが行方不明になって、捜してほしいってうちにきてたんだよ。けどさ、そしたらさ、いたんだよ」
 話の流れが掴めない。
「行方不明になった塩原の爺さん、この病院にいたの。お前を連れてきた時、塩原が看護師にチラッと自分の爺さんが行方不明になってることを言ったらしいんだよ。そしたら数日前に救急車で運ばれてきた爺さんで、身元不明の人がいるって教えてもらって、確認したら本人だったって。コンビニの前で倒れてて、救急車で搬送されてここに入院してたんだってさ。身元がわかるようなもんを何も持ってない上に、認知症で名前が言えなくて、連絡が取れなかったんだってさ」
 ……おかしい。爺さんは死んでたんじゃないのか? じゃあ塩原の後ろにいた奴は誰だ? 親しげな雰囲気だったが、その爺さんじゃなかったってことなんだろう。熱が出て、そういう見極めが鈍っていたのかもしれない。
「すっげえ偶然って、塩原も喜んでたよ」
 あいつの爺さんが生きていようが、死んでいようがどうでもいいし、正直、喜ばせたくなかった。
 スマホの着信音が響く。和樹はメッセンジャーバッグからそれを取り出し、画面を操作しながらフッと笑った。
「塩原がお前によろしくって。しっかしこいつの使ってるスタンプ、微妙にキモいな」

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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