よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

「おい、お前のダン箱から何かおどろおどろしいモンが出てきたぞ」
 最初に見つけたのは、間違って開封した和樹だ。数珠は葬式で見かける三十センチほどのものと違い、二メートルほどと長く、獣の骨や歯のようなものがついていた。一目見ただけで、イタコだった祖母の仕事道具の数珠だとわかった。それを使って口寄せをする祖母の姿が脳裏に浮かぶ。祖母の遺品を母親が譲り受けていたんだろう。
【捨てて】
 和樹と距離があったので、そう唇を動かした。和樹は数珠をじゃらじゃら鳴らしたり、首にかけたりしながら「なあなあ、これを使ったら、捜し物をする時にもそれっぽくなるんじゃね?」と言い出した。
【いや】
 そう唇を動かした。見えたはずなのに、和樹はその数珠を白雄の首にかけた。一瞬だけ、火傷するかと思うほど首が熱くなり、すぐに治まった。数珠に触れてみたが、もう熱は伝わってこない。それでも……この数珠に、力があるのはわかった。
「お前、似合うじゃん」
 何も感じない和樹は、暢気(のんき)に笑っていた。イタコの修行なんてしたことない。けれど数珠はあり、婆さんが唱えていた経文や呪文は何度も「視て」、頭に入っている。試しに捜し物で使ってみると、これは潤滑油のようなものだと気づいた。なくてもやれるが、あるとスムーズに、もっとはっきり視える。
「もしかしてお前さぁ」
 過去に飛んでいた意識が戻ってくる。和樹が腕を掴んできた。
「俺と塩原の話、聞いてた?」
 無視しても問い返されそうで「「聞いた」」と返事をする。
「やっぱな。塩原の爺さんがこの病院にいるのが視えて、倒れるついでに塩原をここに連れてきたんだろ」
「「んなわけあるか」」
 呆れる。自分の能力を買いかぶりすぎている。自分は霊と話ができて、ものから読み取った過去の出来事が視えるだけだ。
 和樹は「そうなの?」と不満げだ。
「けど、ドアをバーンって開けただろ?」
「「何それ」」
 和樹は「覚えてねえの?」と首を傾げた。
「俺と塩原が話してたら、事務所と家の間のドアが開いたんだよ。けっこう勢いよく」
 ……あの時は、目眩がしてしゃがみ込んでいた。婆さんが上に乗ってきて、しんどくて、そのまま意識が飛んだ。ドアは開けたが、十センチくらいだった。風でも吹いたか……家の中で?
「お前が倒れる時に、ドアにぶつかったのかもな。まぁ、それはどうでもいいや。点滴終わった後にもう一回診察して、大丈夫なら帰っていいらしいぞ」
 目覚めた時から婆さんは和樹の、生け贄の横に立っている。この婆さんなら、ドアを開けるぐらい簡単にできるだろうが……いったい何のために?

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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