よみもの・連載

捜し物屋まやま

最終回 後編

木原音瀬Narise Konohara

【あんた、何考えてんだ?】
 聞いても返事はない。熱のせいかそれからまた少し寝て、針を抜かれる気配で目が覚めた。すぐに医師の診察があり、入院の必要はないとのことで、家に帰る準備をした。はしかだからと、正面玄関ではなく別の出入口へと案内される。
 少しふらつくので和樹の肩を借りて病院を出る。するとすぐ傍の駐車場に車が止まっているのが見えた。アイドルオタクの警察官、ポリさんのセダンに似ているなと思っていたら、後部座席から三井と徳広(とくひろ)が出てきた。
「白雄くん、まだ具合が悪そうですね」
 三井は心配そうにこっちの顔を覗(のぞ)き込んでくる。
「点滴終わったら、もうすることないみたいでさ。こういうバイオテロを病院に置いておくより、家に連れて帰った方が俺もいろんな意味で安心だわ」
 和樹の乱暴な説明で「ま、確かに」と徳広が納得する。和樹とは身長差があって歩き辛いので、三井と徳広に両肩を支えてもらって歩く。
 自分が汗臭いのはわかっているが、徳広と三井も負けずに汗臭い。やけに臭うなと思っていたら、三人はアネモネ7(セブン)のライブ帰りで、自分たちを拾うために、わざわざ時間を合わせて病院に回ってきてくれたようだった。
 助手席に白雄が座り、後部座席に三井、和樹、徳広が乗り込む。運転手のポリさんは左右をきっちり確認し、車を発進させた。そして「暑かったり寒かったりしたら教えてください。気分が悪くなったらすぐに車を止めますから」と白雄の顔を覗き込んだ。
「和樹君は興味ないだろうけど、聞くだけ聞いてもらってもいいかな。俺、今日ミイミイとハイタッチしたんだ」
 徳広が多幸感に溢(あふ)れた声で喋り出す。ライブで最前列にいた徳広は、右手の指先がミイミイの手と触れたようだった。
「俺、しばらく手は洗わないでいようと思ってるんだ」
「えっ、トイレ行った後も?」
 和樹の素朴な疑問に「直(じか)に触らないようにするから」と答える。
「気持ちはわかりますけどね」
 運転しながら、ポリさんが同意する。
「洗っちゃうと、感触まで消えちゃう気がしてさ……んっ? 何か首のとこいる……」
 何気なくバックミラーに視線をやった白雄は見た。徳広の右手に、アーモンドの三倍ぐらいの大きさの黒い物体が摘(つ)ままれているのを。その物体はカサカサと手足と触角を動かしている……。和樹が反射的にドア側に体をよける。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(まやま・かずき) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。25歳。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(まやま・しお) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。25歳。不思議な能力があるようだが……?

徳広祐介(とくひろ・ゆうすけ) 捜し物屋と同じビルに入っている法律事務所で働く弁護士。37歳のドルオタ。

三井走(みつい・かける) 元ひきこもりで、現在は捜し物屋の受付&法律事務所の電話番兼受付の35歳。徳広と推しが同じドルオタ。

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