よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話前編

木原音瀬Narise konohara

 駅を降りてすぐ右に曲がって、コンビニを二つ通り過ぎてからちょっとだけ歩いて、牛丼屋のいい匂いの前まで来たら、向かいにビルが見えてくる。四階まであって、外側が深緑色のタイルでくすんでいて、最初は何だか古そうだなって思った。
 ビルの一階は「サンライズ不動産」って看板が出ている。その横に上の階に行く入口があって、奥に階段が見える。入口から中を覗(のぞ)き込んだら、人が下りてきてた。慌てて道に出て、タイルの壁に背中をくっつけて俯(うつむ)く。自然と自分の息は小さくなる。中から出て来た人が、目の前を通りすぎた。首にタオルを巻いて、黒い半袖のTシャツ。だぼっとしたズボン。工事現場によくいる人の服だ。
 大工さんかなぁと思いながら、ザブレフ光(ひかる)はもう一度、入口から中を覗き込んだ。誰もいない。足音もしない。身を隠す猫のようにひょいと中に飛び込んで、階段を一段飛ばしで駆け上がった。
 二階を通りすぎて、三階に行く。奥にある部屋のドアが大きく外側に開いていて、がらんとした部屋の中がチラリと見えた。そして四階。四階までやってきて、ホッと息をつく。走ったから、心臓がドキドキしている。おでこに手をあてたら、じわっと汗をかいてた。雨が降ると寒い時があるけど、晴れると蒸し暑い。雨が降ると、施設の職員が「洗濯物が乾かない。だから梅雨時って嫌なのよ」って不機嫌になる。
 四階には二つドアがあって、手前のドアには何も書いてない。細い通路の突き当たりにあるドアにだけ横長の小さな看板がついている。ここに来たのは、二回目。走った後とは違う感じで胸のドキドキが大きくなってきた。
 ここまで来たのに急に帰りたい気がしてきて、背中がムズムズする。「伊緒利(いおり)ちゃんの知っている人だから大丈夫」って声に出してみても、自分はあまりよく知らないから、話すのがちょっと怖い。でも、どうしても聞きたいことがある。
 クッと歯を噛(か)みしめて、奥まで歩いた。「さ、が、し、も、の、や、ま、や、ま」と看板を読んでから、えいっという気持ちで音符マークのボタンを押す。ドアの向こう、ピンポーンとこもった音が響いているのが聞こえてくる。
 しばらく待っても、返事はない。音はしてるのに、気づいてないんだろうか。もう一回押してみる。ドアチャイムが鳴った後も、部屋の中はシーンとして静か。試しにドアノブを掴(つか)んで回してみると、ガチッと止まった。鍵がかかっている。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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