よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

 事務所の中に人はいなかった。そのかわり茶色のキジトラが「うにゃっ」と駆け寄ってきて、三井(みつい)っちの足許(あしもと)に頭をこすりつけてきた。
「ヒカル……じゃない、ミャーだ」
 この子は自分と同じ名前の「ヒカル」って猫だと思ったら、別の猫だってこの前来た時に言われた。名前がヒカルじゃなくてがっかりしたけど、ヒカルにそっくりなミャーは人なつっこくてかわいい。
「抱っこしていい?」
「ミャーが嫌がらなかったら、いいよ」
 抱き上げると猫は足がだらんとのびた。あったかくて、かわいい。顔をくっつけたら、毛がふわふわする。嫌がってないから、そのまま胸に抱っこした。「うみゃん」と鳴いて服の胸にあるレースを、毛繕いするみたいに舐(な)めている。
 事務所の真ん中にあるドアが開いて、半ズボンにTシャツの背の低い男の人が出て来た。捜し物屋の和樹(かずき)さんだ。
「あれっ、三井っちだ。……あと光(ひかる)君?」
「和樹君、どこ行ってたの?」
 三井っちの声が、ちょっとだけ和樹さんを責めているように聞こえる。
「あーっ、白雄(しお)に付き合って内装業者んとこ。壁紙が発注してたのと色が違うって、白雄が激おこでさ。俺はそのままでもいいんじゃないかって言ったけど、あいつ変なとこでこだわり強いから、一緒に話つけにいってきた」
 三井っちが首を傾(かし)げる。
「光君と約束してたんじゃないんですか?」
「約束? 何それ?」
 嘘(うそ)がバレる。なので「ごめんなさい」と先に三井っちに謝った。
「えっ、あの、どういうこと?」
 三井っちがおろおろしている。お菓子とメロンパンをもらって、親切にしてもらったのに、嘘をついてたなんて、すっごく決まりが悪い。
「本当は約束してなかったんです。ママが見つかったかどうか、知りたかったから……」
 和樹さんの声が「あーぁ」と、だんだん低くなる。
「ママはさ、まだ捜してる途中だよ。ママの知り合いに話を聞いたから、そこから先を調べてるトコかな」
 先週、伊緒利(いおり)ちゃんが話してたのと同じだ。
「そう……なんだ」
 腕の中にいるふわふわの猫をギュッとしたら「うみゃん」と鳴いて暴れた。驚いて手を離すと下に飛び降りて、机の下にダッと駆け込んでいく。猫にも嫌がられて、すごく悲しい。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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