よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「見つかったら、すぐに松崎(まつざき)に連絡させるからさ」
 伊緒利ちゃんも、和樹さんもすぐに連絡をくれるって言うけど、もう二週間待ってる。ママが出て行ってから、ママ捜しを頼むまで四ヶ月、頼んでから二週間。頼んでからの方がずっとずっと短いのに、気持ちが待てなくなっている。
「ママ、見つかるよね?」
 和樹さんは腕組みをして「うーん」と唸(うな)り「そのうちに」と曖昧な言い方をした。いつになるか教えてはくれない。いつまで待てばいいんだろう。じわっと涙が浮かんできた。
 そっと肩に手が置かれた。三井っちが優しい目で自分を見下ろしている。
「光君、ミャーにおやつあげない?」
「おやつ?」
「ミャーがすごく好きなやつ」
 三井っちが自分をソファに座らせた。そしてポケットから細長い袋を出す。するとダダッと足音がして、隠れていたミャーが駆け寄ってきた。三井っちは袋の口の端を切って、持たせてくれる。するとミャーが膝に乗ってきて、うみゃあ、うみゃあと必死に鳴き始めた。おやつをあげると、凄(すご)い勢いでガツガツと食べ始める。さっきの太った人みたいだ。中身がなくなっても、欲しそうに「うみゃん、うみゃん」と膝の上で鳴いて、すり寄ってくる。
「ふふっ、もうないよ。ごめんね」
 ミャーはしばらく鳴いていて、諦めたのかそのうち静かになった。膝の上で丸くなる。電話がかかってきて、三井っちは部屋を出ていった。猫はずっと膝に座ってくれていて、その重みを感じながら頭を撫(な)でていると、ソファがちょっと揺れた。隣に和樹さんが座ってくる。
「捜すのが遅くて、ごめんな」
 大人にはいつも叱(しか)られるばかりだったから、謝られてびっくりした。きっと和樹さんも、一生懸命捜してくれてる。それでもママは見つからないのだ。それなのに、『遅い』『いつ見つかるの』って怒ってた自分が、恥ずかしくなる。
「光君のママさ、お店のほかにも仕事をしてたの、知ってる?」
 聞かれて、首を傾げる。
「よくわからないけど、日曜日は店がお休みなのに、たまにママはお仕事に行ってくるって出掛けてた。ママがいない間、子供が一人でいると危ないって、僕はエリザのとこに預けられてたよ」
 日曜日以外は、ママが夜の仕事をしている間、店の控え室の隣にある小さな部屋にいた。自分のほかにいつも二、三人の子供がいて、一緒に遊んだり、勉強したりしてた。仲良くなっても、その子のママが仕事を辞めると、その子も来なくなる。しばらくしたら、また新しい子がやってくる。そうやっていろんな子が入れ替わっていったけれど、小学生になってもずっと行っていたのは自分だけだった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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