よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「日曜日に出掛ける時、どこに行くとかママ言ってなかった?」
「何も言ってない。お仕事行ってくるってだけ」
 あの日の日曜日……ママは朝早く「おしごと、いってくる」と、自分をエリザに預けて出掛けていった。いつも通りだった。夜になっても迎えに来てくれなかったこと以外は。
「日曜日の仕事がママがいなくなったことに関係してるんじゃないかって考えてるんだけど、それについて知っている人がいないんだよなぁ。あとさ、店の支配人とウエイター以外で、ママと仲良くしてた男の人っているかな? 知ってる?」
 首を横に振る。和樹さんは「そっか」と頬づえのまま息をついた。もしかして、自分が何か思い出すことで、ママを捜す手がかりが見つかるんだろうか。目を閉じ、必死で考える。ママの一番そばにいたのは、自分だ。お気に入りのワンピースに、お気に入りのバッグ。ママはいつもみたいに綺麗(きれい)だった。わからない。思い出そうと考えているうちにこめかみが痛くなってきて、顔を上げる。
 横にいる和樹さんが「奥の手使っても、わかんないんだよなぁ」とのけぞった。その頬に、ピンク色の赤い跡。何だろ。あぁ、頬づえをついてたから、きっと手の跡だ。白い肌に、ピンク色の……跡……。
「……ピンクのリボン」
 和樹さんが「リボンって、何?」と聞いてくる。
「ぼく、いつもママと一緒にお風呂に入ってたんだけど、ママは体にピンクのリボンみたいな跡があったんだ」
 肌の上にあるピンクに触りながらママのこれって綺麗だねって言ったら、ママは「そうでしょ」と笑ってた。
 和樹さんは「ピンクの跡か」と腕組みする。
「ピンクの跡は、濃くなったり、薄くなったりしてたよ」
 和樹さんが考え込む。ギギッと事務所の真ん中にあるドアが開いた。黒いTシャツを着た男の人が出てくる。背が高い。初めて見る顔だ。伊緒利ちゃんと一緒に、ママを捜してってお願いしにきた時は、三井っちはいたけどこの人はいなかった。
 背筋がぞくんとした。この男の人、怖い。全然笑わなくて、目が蛇みたいで怖い。黒いTシャツがこっちをじっと見ている。蛇の目の視線が嫌で、慌てて俯(うつむ)いた。
「あーいいとこ来た。光君からママの話を聞いてんだけどさ〜、体にピンクの跡がついて、薄くなったり、濃くなったりとかすんだってさ。何だと思う?」
 おそるおそる顔を上げる。黒いTシャツが近づいてきて、和樹さんにスマホを見せた。和樹が「あーあーあー……それ……そうゆうことなの。めちゃアダルティ案件じゃん」と微妙に声のトーンが落ちる。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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