よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「けど、それなら何か的絞れっかもな〜。けっこうマニアックな趣味だし」
 黒いTシャツは、またこっちを見ている。蛇の目はガラス玉に似てて、何も考えてないみたいで怖い。
「……この人は誰ですか?」
 和樹さんは「あれ、知らない?」と黒いTシャツを指さす。
「こいつ、俺の弟。白雄っていうの。捜し物屋を手伝ってくれてんだよ」
 兄弟ということに驚いた。弟だという白雄さんの方が背は高いし、歳も上に見える。
「全然似てない」
 考えていたことが、ぽろっと口から出る。和樹さんは「だよね」と笑った。
「俺ら兄弟だけど、血は繋(つな)がってないからさ」
 ハッとする。失敗したって思ったけど、和樹さんは怒ってないみたいでホッとする。ママが仕事の間、小さい部屋で仕事が終わるのを待っていた時、兄弟で預けられている子がいた。お兄ちゃんに「弟と似てないね」って言ったら、急に怒りだして喧嘩(けんか)になった。後でママに「ふたり、おとうさん、ちがう」と教えられた。お父さんが違うから、顔が似てない。だからそういうことは、言わない方がいいってわかってたのに、うっかりしてた。
 和樹さんと白雄さんは、兄弟でも血が繋がってない。あれ、けどママかパパが一緒なら、半分は血が繋がってるんじゃないだろうか? よくわからない。
 ミャーが膝の上でのそりと立った。ふわふわの背中を撫でていたら、後ろ足で立ち上がって、胸のとこにトンと前足を置いた。口のところの匂いをふんふんと嗅いでくる。そんなミャーが「うみゃっ」と鳴いて、バタバタと後ろ足を動かした。前足の爪が、両方とも胸のとこのレースに引っかかってる。
「うにゃん、うにゃん」
 ミャーがちょっと暴れる。和樹さんがミャーを抱っこしてくれて少し落ち着いたけど、レースに猫の爪は引っかかったまま。おとなしくしている間に外したいのに、ちょっとでも触るとミャーが暴れるから、怖くて触れない。
「白雄〜光君の服にミャーの爪が引っかかってるからさ、外してやってよ」
 白雄さんが近づいてきて、ソファの後ろ側……背中に回ってきた。後ろに立たれただけなのに、ゾクンと寒気がする。
「こいつ、力もあるけど器用なんだよ〜」
 和樹さんは白雄さんのことを、怖いとか全然思ってなさそうだ。白雄さんの指はとても長くて、ミャーの右の前足をぎゅっと掴(つか)み、スッとレースから外した。左の前足を掴んだ時に、ミャーが「うみゃっ」と鳴いて白雄さんの右手の甲を引っ掻(か)いた。スッと赤くなって、薄く血が滲(にじ)む。白雄さんはまったく気にしてない感じで、左の爪もスッと外した。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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