よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

 爪が引っかかったのが嫌だったのか、ミャーは和樹さんが手を離すと、窓際のデスクの方に離れていった。
「引っかかれたとこ、血出てるな」
 和樹さんが呟(つぶや)き、白雄さんが鬱陶しそうに右手を軽く振る。
「手洗ってから、絆創膏(ばんそうこう)持ってこいよ。貼(は)ってやるから」
 白雄さんは頷(うなず)く。自分が猫を抱っこしていたせいで、怪我(けが)をさせてしまったような悪い気がしてくる。
「ごめんなさい」
 白雄さんは怖いけど、迷惑をかけてしまったから謝った。白雄さんはこっちをチラッと見ただけ、何も言わずに部屋の真ん中にあるドアを開けて向こうの部屋に入っていった。
「怒ってるのかな……」
 和樹さんが「んっ?」とこちらに振り向く。
「白雄さん、謝ったけど何も言ってくれない」
「あーっ、言い忘れてたんだけどさ、白雄は喋(しゃべ)れないんだよ」
 驚いて、思わず和樹さんの顔を見た。
「子供の時から声が出ないの。けど耳は聞こえてるから。白雄は言いたいことがあると、スマホに入力してこっちに見せるんだよ。俺は慣れてっから、白雄の唇読むことが多いかな」
 そういえばさっき白雄さんはスマホに入力して和樹さんに何か見せていた。子供には秘密にしているのかと思ったけど、喋れないからだなんて考えもしなかった。喋れないなんて大変そうだ。
 服の胸元のレースが、ぴらっとしてる。猫が暴れたから、ちょっとだけ破れた。でもこれぐらいなら、自分で直せる。
 ママを待っていた、お店の控え室の隣にある小さな部屋。そこには最初、服が置いてあった。フリルや鳥の羽のついたドレスが沢山あった。どれもふわふわ、キラキラして、とても綺麗だった。服を頭からかぶってみたり、そんな自分を鏡に映してみたり。楽しくてずっと遊んでいた。素敵な遊び場で、自分はそこが大好きだった。
 小学校に上がる前の年だった。月曜日、いつものようにママは控え室、自分は隣の部屋に入ったら、大好きな服が全部なくなっていた。宝物がなくなったことにびっくりして、ワンワンと声をあげて泣いた。
 その部屋にあったのは、今のお店の前のお店がショーで使っていたものだった。もしかしたら使えるかもと考えて置いていたものの、結局何年も使わなかったので、土日の間に捨てられてしまったのだ。
 それから毎日、部屋に行く度に泣いてた。泣くつもりはないのに、宝物があった棚が空になっているのを見ると、悲しくなって自然と涙が出る。そしたら日曜日、ママがショッピングモールに連れていってくれた。好きな服を買ってあげると言われて、嬉(うれ)しくて、レースがいっぱいついたTシャツと、ピンク色のスカートを買ってもらった。ママの友達はみんな「光、カワイイ」「光、にあう」と褒めてくれる。よく女の子に間違えられたけど、気にしてなかった。どっちでもよかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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