よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

 胸がドキッとした。
『う、ざ、い』
 息を吞(の)む。見間違いならいいと思ったのに、白雄さんの唇はもう一回『う、ざ、い』と動いた。
「……光君? うちにいるよ」
 ハッとして振り向いた。ドアの近くにいる和樹さんが、スマートフォンを耳に押し当てたままこちらを見ている。
「ママは見つかったかって、進捗(しんちょく)状況を聞きにきてる感じだけど」
 胸がドクドクしてきた。和樹さんが電話をしている相手は誰だろう。もしかして……。
「施設の職員が捜してるって?」
 立ち上がり、ドアに向かって走った。
「あ、おい、光君。ちょっと待って……」
 捜し物屋の事務所を飛び出し階段を駆け下りていたら、二階のとこの廊下に太った人がいた。
「光君、どうしたの?」
 声をかけられたのに、返事もできないまま走る。もう施設へ帰るだけの電車代はない。だから歩いて帰るしかない。でも帰りたくない。どうせまた叱られる。施設の職員は嫌い。好きな人もいるけど、嫌いな人もいるから、みんな嫌い。自分の着ている服のこと、何にも言わない職員と、変な子って陰で言う人がいる。
 歩きながら涙が出てきた。ママがいたら、ママさえいてくれたら、こんな嫌な思いも、寂しい思いも、しなくてよかった。
 メチャクチャに走っているうちに、自分がどこにいるのかわからなくなった。それでも大きな道を、建物がたくさんあってにぎやかそうな方に歩いていく。そうしているうちに、見覚えのある公園が見えてきた。アスレチックがたくさんある公園で、何度かママと一緒に遊びに来たことがある。ここから線路沿いに行けば、アパートに帰れるかもしれない。
 けどアパートまで帰っても、部屋には行けない。きっと施設に連れ戻される。もうあそこは嫌。自分の髪の毛を引っ張る子が、その服は変だって叩(たた)いてくる子がいるあそこは嫌だ。からかわれるのが嫌なら、服を変えてみたら?って言う先生も嫌だ。ママがかわいいって言ってくれる自分がいい。自分が好きな、自分がいい。
 公園に入った。みんな大きい広場に集まっているみたいで、遊んでいる子はいない。ジャングルジムによじ登ると、隣にある大きな木の青々とした葉っぱが、すぐ近くに見えた。森の中にいるみたい。だから、一番上で「うおーん」って鳴いた。森のけもの、狼が仲間を呼ぶように「うおーん」「うおーん」って何回も鳴いてみた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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