よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「何してんだよぅ」
 狼みたいに鳴いてたから、気づかなかった。ジャングルジムの下から、伊緒利ちゃんが自分を見上げている。伊緒利ちゃんは、スマホを耳にあてた。
「光、見つけたっす。公園とかにいんじゃないかってアタリつけたらビンゴ。これから施設に連絡……」
 嫌だ。帰りたくない。ジャングルジムから逃げようとして、下りかけたところで足が滑った。
「あっ」
 体がふわんと浮いて、落ちる。
「うわああっっ」
 誰かの叫び声。体にズシンときたけど、痛くない。
「痛ててて……」
 自分のお尻の下で、伊緒利ちゃんが顔を歪(ゆが)めて呻(うめ)いていた。目をぎゅっと閉じたまま動かない。
「伊緒利ちゃん、伊緒利ちゃん、大丈夫!」
 肩を掴んでゆさぶった。
「いっ、痛いっ。痛いって。ちくしょう、ちっとも大丈夫じゃねーよ。ガチで腰が死ぬ……」
 死、という言葉に、心臓がギュッとされたみたいに苦しくなる。
「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 涙がブワワワッと溢(あふ)れる。
「伊緒利ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい。だから死なないで、死なないで……」
 呻いていた伊緒利ちゃんが「死ぬのは腰だよ。メインの本体は死なねーから、泣くな」と息をついて「上からどいて」と呟いた。慌ててどくと、仰向けのまましばらくじっとしてから、伊緒利ちゃんは腰を押さえてノロノロと体を起こした。
「光さぁ、間山(まやま)センセのトコに行くなってわけじゃねぇけど一応、施設の人に言ってから出てこいよ。みんな心配すんだろ」
 責められて、息苦しくなってくる。
「……だって、施設の職員に言ったら、ダメって言われる」
「そうなの?」
「だって、どこに行くか言えないし。ママを捜してもらっていること、話しちゃだめなんでしょ、だから……」
 伊緒利ちゃんは「あーっ」と変な相づちを打ってきた。
「電車に乗っていく遠いところは、職員の許可がいるんだよ。一人でだと許可出ないし。僕、この前も規則を守らなかったから、外出禁止って言われてたし」
 伊緒利ちゃんは「そういや先週も抜け出してたな」と顎を掻く。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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