よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「けどなあ、何にも言わないでいなくなったら、みんなに迷惑がかかるだろ。心配させるしさ」
「だから、心配なの!」
 伊緒利ちゃんが「心配って、みんなが心配してんのはお前だぞ」と首を傾げる。
「僕だって、心配なの。ママが心配なの。何も言わないでいなくなったから、ずっとずっと心配なの!」
 両手で胸を押さえた。
「だって僕が心配しなきゃ、誰もママのこと心配してくれない」
 また涙が出て来た。
「誰も、ママのことを気にしてない。ママのことなんて、どうでもいいんだ。僕が捜さなきゃ、捜そうとしなきゃ、誰も捜してくれないじゃないか」
 うわあああんと泣いた。頭にそっと手が置かれる。伊緒利ちゃんの手だとわかっていても腹が立って、叩いて振りはらい、地面に突っ伏した。
「そんな、泣くなよぅ」
 伊緒利ちゃんの声が困っている。わかる。泣いちゃいけないって思えば思うほど、涙は止まらない。
「俺が悪かったよ。俺が悪かったから泣くなって。ほら、そんなゴロゴロ転がってると、かわいいフリフリの服が汚れるぞ」
 今は服なんてどうでもいいのに、わかってない伊緒利ちゃんにあてつけて、わざと声をあげてワンワン泣いた。あんまり泣いてたから「大丈夫ですか?」と声をかけてくる人がいた。「大丈夫っす。ちょっと嫌なことあったらしくて」と言い訳している伊緒利ちゃんに、もっともっと腹が立って涙が止まらない。
 しばらく泣いてると、頭が空っぽになった。悲しいのはちょっと遠くなる。そのかわりに空っぽだ。体を起こす。伊緒利ちゃんは隣にいて、座ったままスマホを弄(いじ)っていた。空っぽの心がうわーっと怒りでいっぱいになって、伊緒利ちゃんのスマホを奪い取り、思いっきり遠くに投げた。
「うわっ、お前、何すんだよぅ」
 伊緒利ちゃんの顔は怒ってた。こっちも泣きながら睨(にら)みつけてたら、段々と伊緒利ちゃんの怒りが小さくなっていくのがわかった。
「僕、どうしたらいいの?」
 大人の伊緒利ちゃんに聞いた。
「ママいなくて、寂しい。悔しい。苦しい。どうしたらいいの?」
 伊緒利ちゃんが「俺に聞かれても……」と口の奥でモゴモゴ喋っている。
「伊緒利ちゃんには、ママがいるの?」
「いるよ。一緒には暮らしてないけど……」
「どうして一人で何でもできる大人の伊緒利ちゃんにママがいるのに、子供の僕にママがいないの?」
 伊緒利ちゃんが黙り込む。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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