よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「施設には、親のいない子がいるけど、どうしていないの? どうして親のいる子と、いない子がいるの? どうして僕は施設にいるの? 親がいないって、虐められるの?」
「親がいる、いないはケースバイケースっていうか……」
 喉の奥から声をしぼりだしている伊緒利ちゃんの膝を叩いた。
「どうして、僕の知らない言葉をつかうの!」
 伊緒利ちゃんに怒ってたら、一人でいるよりも寂しい感じがしてきて、またぶわああっと涙が出る。伊緒利ちゃんは「泣くなって言ってんじゃん」と自分の方が泣きそうな顔をした。
「俺にはさ、お前の気持ちはわかんないよ。だからわかんないことを責められても、どうしようもないっていうか。俺はお前とは赤の他人だし、俺ができることは捜し物屋のセンセにお前のママ捜しを依頼するとか、せいぜいそんぐらいなんだよ」
「僕が、悪いの?」
 伊緒利ちゃんは「そうじゃない、そうじゃなくてさぁ……」と俯く。しばらく伊緒利ちゃんは黙っていたけど、急に「お前さ、どうしたら自分が泣かないと思う?」と聞いてきた。わけがわからなくて返事ができずにいたら、伊緒利ちゃんは「遊園地行くとかさ」と言い出した。
「次の日曜に、連れていってやるよ。弁護士のセンセに話を通してもらったら、まぁ何とかなんだろ。他にも俺にできることがあったら、法に触れない範囲でやってやるよ」
 遊園地は好きなのに、今はちっとも行きたくない。
「抱っこ」
 伊緒利ちゃんの上着を掴んだ。
「ママみたいに、抱っこして」
「ママみたいって、どうすりゃ……」
 お手上げみたいに両手を広げた伊緒利ちゃんの胸に飛び込んだ。伊緒利ちゃんが「うおおおっ」と声をあげる。伊緒利ちゃんは、ママと違って柔らかくない。それでもじわっとあったかかった。
「ママみたいに、ギュッとして」
 背中の手が、ギュッとしてくる。それでももっと、もっと欲しくて「もっとぎゅっと」「もっとぎゅっと」と繰り返した。ママはそんなに強くぎゅっとしてなかったけど、ぎゅうぎゅうになってつぶされそうな感じがよかった。それなのに、途中でフッと力が緩んだ。伊緒利ちゃんの顔を見たら「や、お前の骨、折れそうだから」と困った顔をしていた。
「ママみたいに『光、かわいい』って言って」
 伊緒利ちゃんは「光、かわいいなぁ」って言う。でも違う。
「ママが言うのと、違う。日本語、下手な感じで言って」
 伊緒利ちゃんは、無茶ぶりすんなよぅとぼやきながら「光、かわいい」って何回か言った。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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