よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

「光、好きって言って」
 伊緒利ちゃんは「んんっ」とちょっと唸ってから「光、好きだなぁ」と言う。ちょっとママが言ってるみたいにきこえて、伊緒利ちゃんの胸に顔を押しつけた。
「光、あいしてるって言って」
 ちょっと時間をおいてから、伊緒利ちゃんから「光、あいしてるぞぅ」ときた。
「もっといっぱい、いっぱい言って。かわいい、すき、あいしてるって言って。ママは毎日毎日、言ってくれたよ」
 抱っこされたまま「かわいい」「すき」「あいしてる」って言葉を浴びる。ぎゅっとしがみついたら、ぎゅっと返してくれる。ママじゃないけど、伊緒利ちゃんは安心する。伊緒利ちゃんは、ママの大事なブローチを返してくれた。伊緒利ちゃんは、ママと同じお酒の匂いがした。伊緒利ちゃんはママを捜してくれてる。伊緒利ちゃんは抱っこして「好きだ」って言ってくれる。
 目を閉じてたら、ざわざわと音がした。さっきまでなかった風が吹いてきて、ジャングルジムの横の木の葉が、ざわりと揺れる。伊緒利ちゃんに映っている木の葉の影が、風といっしょにゆらゆらと揺れた。土の匂いがする。空は晴れているけど、雨が降りそうな土の匂いだ。
 打ち上げ花火みたいにバチバチしてた気持ちが、すーっと消えて静かになる。頭をぽんぽんされて「落ち着いたかぁ」と聞かれた。うんって本当のことを言ったら、もう抱っこしてもらえない気がして首を横に振ったのに「もう泣きやんでんだろ」とすぐにバレた。
「お前は個性的で、集団生活向いてなさそうだし、色々とムツカシートコはあると思うけどさ、とりあえず施設に帰れよ。みんな心配してっし」
 頭を撫でられる。この手は、自分をかわいいって思ってる手だ。
「ママのことはさ、何かわかったらすぐに連絡してやるよ。だから無理に施設を抜け出したりするな」
「僕、毎日電話を待ってた。職員の人に、毎日聞いてた。今日は僕に電話、ありませんでしたかって」
 伊緒利ちゃんは「じゃあさ、何もなくても毎日電話してやるよ」と約束してくれた。ママのこと、毎日電話してくれるんだって思ったら少し気持ちが落ち着いた。
「泣きやまなかったら、どうしようかと思ったわ。もう暗いなぁ。施設まで送ってってやるよ。ほら、立って」
 伊緒利ちゃんに手を差し出されて、のろのろと立ち上がる。と同時につま先にズクンと痛みがきて「痛っ」と声をあげてしゃがみこんだ。伊緒利ちゃんがびっくりした顔をする。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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