よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

 はげたおじさんは、サンダルを履いた足をチラリと見て、ピンクのスニーカーを持ってきてくれた。右足は痛いから、左だけ履いてみる。最初のは爪先がパカパカする。
「ちょっと、大きい」
 そう言うと、伊緒利ちゃんがもう一つ、下のサイズを頼んでくれた。足を出したら、伊緒利ちゃんがスニーカーを履かせてくれる。片方の、靴。
 ……小さい時に読んだ、シンデレラの絵本を思い出す。あの話、大好きだ。
「これで大丈夫そうか?」
 頷くと、伊緒利ちゃんはピンクのスニーカーとサンダルの両方を買ってくれた。サンダルを履いて、古くて小さいスニーカーと、新しいスニーカーが入った袋をぎゅっと抱えて歩く。
「買った後になんだけどさ、施設って赤の他人がそういう靴とか買ってあげてもいいもんなのかね?」
「わかんないけど、ダメって言われたら隠す」
 伊緒利ちゃんは目を細めて「隠すかぁ」とハハッと笑った。
「決まりを守るってのは基本だけど、人に迷惑かけない程度なら嘘も許されるってもんだよなあ」
「伊緒利ちゃん」
 すきっ歯の顔が振り返る。
「靴、ありがとう」
 袋をぎゅっと握り締める。伊緒利ちゃんの手が、頭に置かれた。
「安物だけどな。もう泣くなよ〜」
 コクリと大きく頷いた。駅に着いてから、お金がなかったことを思い出した。正直に話したら、伊緒利ちゃんは「しゃあねえなあ」と切符を買ってくれた。
 電車は空いてて、ドアの近くの席に二人で並んで座った。伊緒利ちゃんは財布の中からカードを取り出した。
「これ、テレホンカードって言うんだけどさ、知ってる?」
 首を横に振る。
「公衆電話の使い方、わかる?」
 頷く。災害の時に、携帯電話が繋がらない時は、公衆電話が使えます。使い方はこうですって、学校の防災訓練で教えてもらった。その時に、学校の近くだと、公衆電話はここにありますって場所を教えてもらった。
「このカードを公衆電話に入れたらさ、公衆電話から電話かけられるの。何か言いたいこととかあったらさ、電話を待ってなくていいから、ガッコの帰りにでも俺にかけてこいよ〜。何かあった時用のホケンで持ってたやつだけど、古い懸賞の残りがまだ会社にあんだよね。なくなったら、言えよ。新しいのまたやるからさ」
 伊緒利ちゃんは、電話番号を教えてくれた。一回で覚えた。靴とカード。どっちも嬉しい。嬉しいプレゼントだ。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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