よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第二話後編

木原音瀬Narise konohara

 プレゼント……何か頭に引っかかる。プレゼント……ああ、思い出した。伊緒利ちゃんの服の裾を引っ張った。伊緒利ちゃんが「んっ?」と振り返る。
「ママがね、プレゼントをあげたんだ」
「プレゼント?」
「お客さんにあげるプレゼント、デパートに買いに行ったんだ。ママはネクタイを買って、店員さんに、ギフトカードがつけられますよって言われたの。ママは日本語が書けないから、財布を探して「この名刺の名前をカードに書いてください」って店員さんに見せてた。その名前がね、鈴村章(すずむらしょう)って名前だった」
 自分を虐めてた小石章人(こいしたかひと)と同じ漢字があるから、ちょっと嫌だなって思ったから、覚えてた。
 伊緒利ちゃんは「ふーん」とどうでもよさそうだ。
「和樹さんに、ママの知り合いに男の人はいないかって聞かれたんだ。ママがお客さんにプレゼントとか、僕が知っているのその人だけだから」
 伊緒利ちゃんは「間山センセに伝えとくわ」とスマホを開いて入力した。別に言わなくてもよかったのかもしれない。けど言った方がいいかなってモヤモヤするのも嫌だった。
 電車に乗っていると、窓に斜めになった水の跡がついた。
「雨だ」
 伊緒利ちゃんも窓を見て「マジか! さっきまで晴れてたのに、何だよ」とぼやく。
「雨、降りそうだったよ。だって雨の降りそうな匂いがしてたもん」
 伊緒里ちゃんが「お前、ドーブツみたいだな。そういやジャングルジムの上でも、ウオンウオンって犬みたいに吠(ほ)えてたな。変なモンにとりつかれたのかと思ってマジビビったわ」と笑っていた。
 雨は降ってもちょっとだったから、傘をささなくてもそんなに濡れなかった。施設に帰ると、職員に物凄く怒られた。前は伊緒利ちゃんの前では怒りを抑えてた職員が、口から火を噴くゴジラみたいになっている。伊緒利ちゃんも顔を強張らせてた。すっごく怒られたけど、伊緒利ちゃんが「寂しいんですよ〜」「心細いんですよ〜」「俺は迷惑なんて思ってないんで〜」と何度も先生に言い訳してくれた。
「じゃあな〜光。いい子にしてろよ〜」
 伊緒利ちゃんが帰っていく。サンダルのまま、ゲートのとこまでついていった。そこから伊緒利ちゃんの背中が見えなくなるまで、ずっとずっと見送った。
 ママじゃない、友達でもない、自分を守ってくれる大人の背中を、ずっとずっと、職員に腕をひっぱられて建物の中に入れられるまで、ずっと見ていた。

(第二話後編 了)

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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