よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第三話前編

木原音瀬Narise konohara

 細かな雨のせいで、街は薄いフィルターをかけたようにぼんやりとした景色になっている。路駐して見上げた四階建てのビル、二階にある弁護士事務所の窓はカーテンがきっちり閉じられていた。
 夕方の五時を少し過ぎたぐらいだが、徳広(とくひろ)は職場から家に帰ってしまったのかもしれない。けれど最上階にある捜し物屋の窓は事務所部分に人影が見える。間山(まやま)兄弟は在宅していそうだ。弟の白雄(しお)は料理をするので、残ったこれを使ってくれるかもしれないと、助手席の段ボール箱に目をやる。
 守山広紀(もりやまひろき)は車を近くの駐車場に入れた。短時間ではあるものの、違反切符を切られたら面倒臭いことになるので、路駐したまま車は離れないことにしている。自分が田舎の駐在所勤務とはいえ警察官であるだけ余計に。
 霧雨なので、傘をささずに段ボール箱だけ抱え、ビルまで小走りする。雨が降っているせいか、六月でも半袖だとじわっと肌寒い。
 念のため、二階の弁護士事務所にも立ち寄りドアをノックしたが、やっぱりというか案の定というか、反応はなかった。昨日配信された「アネモネ7(セブン) 配信限定みけねこライブ」について徳広や三井(みつい)と語り合いたかったし、ここに立ち寄った目的の七割はそれだったが、不在なら仕方ない。
 四階まで階段を上がると、昼から立ちっぱなしだったせいで、軽く足にきた。このビルは古いので、エレベーターはついていない。
「捜し物屋まやま」とプレートのついた扉、その横にあるインターフォンを押す。中から「はーい」と聞き慣れた声が聞こえた。まさか、いや、それもありうるぞと思っている間にドアがガチャリと開いて、小太りの弁護士がひょっこり顔を出してきた。同時にふわっと、香ばしい匂いが漏れ出してくる。
「あれっ、ポリさんじゃない。どうしたの?」
 徳広が小さめの目を大きく見開き、驚いた表情を見せる。
「こちらにいたんですね。ちょうどよかった。何度かラインは入れたんですが……」
 徳広は「えっ、そうなの」と尻ポケットからスマホを取り出し、両手で握り締めて「ああっ」と唸(うな)った。
「ストーカー被害で物音に神経質になってる依頼人が来てて、ずっとサイレントモードにしてたの忘れてたよ……申し訳ない。俺に何か用だった?」
「大したことじゃないんです。もしよかったらこれを食べてもらえないかなと思ったので」
 段ボール箱に入った果物と野菜を見せる。徳広は「おおっ」と猫背気味の背をピンと伸ばした。
「凄(すご)いじゃないの。ま、とりあえず中に入って」
 徳広に促され、守山は捜し物屋の事務所に足を踏み入れた。中には所長の間山和樹(かずき)と弟の白雄、そして上下ジャージでチンピラ風味を漂わせる若い男の三人がいた。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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