よみもの・連載

捜し物屋まやま2

第三話後編

木原音瀬Narise konohara

 電車でショー会場の最寄り駅まで行き、裏通りに入り十分ほど歩くと、会場になるビルらしきものが見えてきた。和樹(かずき)にもらったチケットに印刷されているビル名と同じなので、ここで間違いない。十階建てで一階は居酒屋、二階以上はバーやスナックらしき雰囲気の看板が出ている。
 ビルの前には、ショー名である「ROPE NIGHT」と書いたボードを手に持った、Tシャツにジーンズ姿の若い男が立っている。ボードを見ていたことに気づいたのか、若い男は足早に近づいてきて「ショーを見に来られた方ですか?」と愛想良くニコッと微笑んだ。
「うん、そう」
 和樹が答える。男は「中にあるエレベーターで五階にあがってください。zoroという店が会場になります。あと十分ほどではじまりますのでお急ぎください」とビルを指し示した。男四人でゾロゾロとビルの中に入っていこうとすると「ショーを見に来られた方ですか?」と先ほどの男の声が聞こえ、反射的に守山(もりやま)は振り返った。ショートカットで黒ずくめの服の女性が大きく頷(うなず)いている。こういうショーの客は男ばかりだと思っていたが、そうでもないらしい。
 エレベーターで五階にあがり奥に行くと、黒に「bar zoro」と白抜きしたシンプルな看板があった。エロティックなショーは初体験で、情報収集という目的があるにせよ少し緊張する。徳広(とくひろ)もいつもより口数が少なく、表情も強張っている。対照的に松崎(まつざき)はショーなんかどうでもいいとばかりにスマホに夢中で、和樹は「こんちは〜」とまるで友達の家に来たかのような軽さでドアを開け、スイッと中に入っていった。
 会場になるzoroの店内は、四十畳ほどの長方形で、店の一番奥に、周囲より三十pほど高くなった四畳ほどのステージが作られていた。ステージの前には、一列六席で八列、五十席分ほどの折りたたみ椅子が並べられている。テーブルは撤去されたのか見当たらない。入って左手に五人ほど座れるカウンター席があり、ショーの休憩時間に限って飲み物が購入できると書かれた紙が貼ってあった。
 入口でチケットをもぎられる際、自由席なのでどこに座ってもいいですよと説明を受ける。ショーの開始十分前で、客の入りは現時点では八割というところ。前の方から順に詰まっているのは、近くで見たいという心理からだろう。
 みんなバラバラに分かれて席に着く。より多くの客に話を聞くためだ。前の方の空席から順に松崎、徳広、和樹とぽろぽろと収まっていくが、守山は最後尾の列を選んだ。緊縛ということは、縛られる側は多少なりとも苦しい思いをするはずで、たとえそれが快感だったとしても、近くで見たくなかった。

プロフィール

木原音瀬(このはら・なりせ) 高知県生まれ。'95年「眠る兎」でデビュー。ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。
ノベルス版『箱の中』『檻の外』が’12年に講談社より文庫化され、その文学性の高さが話題に。
『美しいこと』、『秘密』、『吸血鬼と愉快な仲間たち』シリーズ、『ラブセメタリー』、『罪の名前』など著書多数。

登場人物

間山和樹(26) 「捜し物屋まやま」所長兼小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

間山白雄(26) 捜し物屋スタッフ兼マッサージ師。不思議な能力があって・・・・・・。

徳広祐介(38) ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所で働いている。

三井走(36) 天涯孤独の元引きこもり。現在は徳広の勤め先で事務員をしている。

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