連載
アイランド・ホッパー
1 桜島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 昼食を終え、フェリー乗り場までのんびり歩き、二十分ほどで到着。

 鹿児島港と桜島港を十五分で結ぶこの「桜島フェリー」、なんと二十四時間運航しているそうな。運賃は前払いではなく到着した桜島で払い、帰りも桜島で払う。つまり市街地側ではいっさいお金のやりとりがない。片道百六十円と運賃もとてもリーズナブル。船内に立ち食いうどん店があったり、日中は十五分間隔で運航していたりとまさに市民の日常生活における重要な足なのである。

 定刻に出港。錦江湾内は波も穏やかで快適な乗り心地である。船の先頭部分に立って近づいてくる桜島を眺める。浸食された山肌やむき出しの黒い溶岩がなまなましい。
 おりしも今回の旅のちょうどひと月まえに比較的大きな噴火があり、噴火警戒レベルがそれまでの2から3に上げられたばかり。行くまえは「噴火に遭ったらどうしよう」とびびっていたのだが、勇壮な山容を目にしたとたん「せっかくだから噴いてくんないかな」、百八十度態度が変わる。われながらなんと調子のよいことよ……。

 この日は時間があまりないこともあり、サクラジマアイランドビューという島の西エリアを約一時間でめぐる観光バスに乗る。桜島港から出発し、道の駅、ビジターセンターを経て烏島展望所へ。海岸近くのこの展望所、もとは島だったのだが百年前の大正大噴火により溶岩に覆い尽くされ、桜島の一部となってしまったのだという。島ひとつを呑みこむほどの噴火。その規模に思いを馳せる。やがてバスは海沿いを離れ、山道を登り始める。十分ほどで北岳四合目に位置する湯之平展望所に到着。標高三七三メートル、観光客が訪れることのできる最高地点である。目のまえにそびえたつ北岳は荒々しく、男性的な印象だ。一転振り向けば波穏やかな錦江湾、その向こうに鹿児島市街が陽炎のように揺らめく優しげな風景が広がっていた。
 帰りのフェリーでH君に「錦江湾は大むかしにできたカルデラなんです。ちなみにカルデラとはポルトガル語で『おおきな鍋』を意味します」と教えてもらう。「カステラと関係あるかね」、素朴な質問をすると数秒沈黙したのちH君は「……ないと思います」静かにこたえた。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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