連載
アイランド・ホッパー
1 桜島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa
 フェリーを降り、可愛らしい市電に乗って天文館へ。夕食は「正調さつま料理 熊襲亭」にて。磨きこまれた木の引き戸を開け店内に入ると、古い薩摩琵琶や独楽の形をした愛らしいお雛さまが飾られており、こころが和む。ちなみにここでも仲居さんに「走りに来たんですか」と聞かれた。

「キビナゴの刺身」は見た目にも綺麗。淡泊で引き締まった身でいくらでも食べられそう。「名物黒豚とんこつ」は、こってり甘口醤油で煮込んだスペアリブと大根の相性がばつぐん。「さつま地鶏のたたき」や定番の「さつま揚げ」をつまみに芋焼酎「村尾」をロックでくいっ。芋くささがまったくない澄んだまろやかな飲み口で、濃いめの料理にぴったりだ。

 最後は「鶏飯」。ご飯のうえに錦糸たまごや海苔、鶏を細く裂いたものをのせ、熱々のお出汁をかけていただく奄美地方の郷土料理だ。優しいお味でお腹もこころも大満足。あとはホテルに戻って寝るだけ。寝るだけ――のはずだったのだが。
 やっちまったんである、わたしは。飲んだあとむしょうに食べたくなるシメのラーメン、その誘惑に負け、深夜ひとりホテルを抜け出し、本日二杯目の鹿児島ラーメンを完食してしまったのである。やー美味しかったなー。
「やばい」。ようやくコトの重大さに気づいたのは、翌朝、鏡でオノレの腹部を見てから。ただでさえ最近太り気味なのに、人間ドックで注意されたばかりなのに……。ここに至り「いかにカロリーを消費するか」が今回の旅の隠しテーマとなった。

 翌日は降水確率八十パーセントの予報だったが見事に晴天。「わたし編集部いちの晴れ女なんです」M嬢が胸を張る。素晴らしい。ぱちぱち。H君も引きつづき付き添ってくれる。
 市内中心部はマラソンのため至るところ規制されており、昨日二十分で歩けた港まで迂回に迂回を重ね一時間近くかけて到着。引き締まった身体のランナーを見かけるたび、後悔と焦りがどっと押し寄せる。歩かねば。そして消費しなくては、お腹についた脂肪のやつらを!
 島に渡り、港から反時計回りに桜島を半周するため観光タクシーに乗り込む。もちろんお約束の「走りに来たんですか」の洗礼にあう。
 黒神埋没鳥居まで東進する途中、ひっそりとした集落を見かけた。運転手さんによるとこの有村集落は火口から三キロメートルの危険区域内にあり、移住するよう勧告されたこともあるという。そのためほとんどの住民が移住し、残っているのは四世帯七名のみ。いずれもこの地に残ることを強く希望するかたたちだそうだ。生まれ育った土地への愛着をつよく感じる。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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