連載
アイランド・ホッパー
1 桜島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

「ではまず窯を作りましょう。お好きな溶岩の破片を持ってきてください」係員さんに言われるまま、破片の詰まった鉄かごから各自、溶岩を拾い上げる。この溶岩がまた重い。密度が高いせいか見かけよりずっと重いのである。両手で抱えるようにして持ち上げ、万が一にも足先に落とさぬよう慎重に運ぶ。
「その溶岩を組み合わせ、土台のうえに窯を築きます。石垣を積む要領ですね。なかの空気が漏れないよう、すき間は粘土で固めて。一段組み上がったら、次の一段、というように何層か重ねていきます」
 頷いたわたしたちは、三方向に分かれ、それぞれの持ち場をひたすら積み上げる作業に没頭する。

 これがなかなかムズカシイ。煉瓦と違って形もおおきさもぜんぶ違うので、「あっ落ちた」「うわ崩壊した」、なかなか綺麗なドーム型にならないのである。三人の個性の違いもあからさまになる。緻密で丁寧な仕事ぶりのH君。行き当たりばったりのM嬢。そして生来のがさつさを遺憾なく発揮したわたしの担当部分はサザエのような凸凹ぶりである。
 なんとか組み上げ、熱した木炭を窯に投入する。つづいて廃材を突っ込み、上手く燃え盛るようにうちわであおぐ。窯の火が安定した頃合いを見計らって、ピザの材料登場。発酵させた球形の生地をめん棒で伸ばし、トマトソースを塗って玉ねぎやピーマン、ベーコンといった具材を散らしてゆく。できたピザを金網に載せ、いざ窯のなかへ。
「焼けムラができないよう、細かく金網を回しましょう」との指示のもと、じりじりとピザを回してゆく。ここでもわたしのがさつさは猛威を振るい、均等に焼けるべき生地の一部分だけがぷっくり盛り上がり、ついには破裂するという「プチ噴火現象」を引き起こしてしまった。ヴォルケーノでヴォルケーノ。嗚呼。

 でもでも、窯から作り、じぶんたちで焼いたピザはとっても美味しかった。「人生でいちばんおいしいピザ」(M嬢・談)だったのである。
 雄大な火山を見ながらゆっくり味わって食べる。この三日間は噴火もなく、ときたま水蒸気が上がってゆくのが見えるくらいだ。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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