連載
アイランド・ホッパー
2 礼文島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 六月初めの羽田空港。晴れ渡る空はどこまでも青い。
 そこから北へ向かうこと約二時間。着陸した稚内空港で見上げる空はどんよりと曇り、いまにも雨が降りだしそうな気配だ。わたしは、ちらり、横目で担当M嬢を窺う。くちびるを噛みしめ、眉間にしわを寄せて天空を見上げたM嬢はひと言、「……こんなはずじゃなかったのに」とつぶやいた。
 そもそもこの時期に北海道の島へゆくことを決めたのは「梅雨の本州を避けるため」であった。「北海道に梅雨は存在しませんから」、打ち合わせのとき胸を張ってそう主張したのはほかでもないM嬢である(函館出身)。われわれの目論見はまんまと外れたわけだ。
 しかし嘆いていても始まらない。今回は空港から稚内港まで移動し、そこからフェリーに乗って北限の島、礼文島を目指す算段である。礼文島といえば花の島、そしてウニの島。花もウニもいまが旬、このさい天候の良し悪しは二の次三の次である。
 港に向かい稚内郊外を車は走る。車窓からは左手に丘陵、そして右手に日本海が見える。海岸に向かってなだらかにつづく丘はいかにも畑作に向きそうな土地だが、運転手さんによると「寒すぎてなにも育たない」そうである。言われてみると生えているのは笹ばかり。それもみな背の低い、「がんばってしがみついてます」的な笹だ。

 港近くに到着。フェリーの出港まで二時間弱。このあいだに運転手さんおすすめの、JR稚内駅に隣接した「北市場・夢広場」へ。ここは一階が主に海産物をあつかう市場で、二階が食事処となっている。
 やはりここまで来たからには美味しい海の幸をいただこう、と、三色丼をチョイス。三色の内訳はウニいくらホタテ。ちなみにM嬢は海鮮ラーメンをオーダー。

 待つこと十分、三色丼と海鮮ラーメンが運ばれてきた。その豪華さに思わずため息。
 ぴかぴか輝くいくらは一粒ひと粒がぷりんと立ち、口にいれると程よい抵抗を感じさせつつ弾けて旨みが広がる。ホタテは肉厚でくさみはまったくなく、ひたすら甘い。そしてウニ。醤油をちょちょっとかけ回してご飯と一緒にほおばると、ねっとり濃厚な味わいが独特の磯の香りとともに鼻へと抜けてゆく。がしっと丼を掴み、夢中でかきこんでゆく。合い間に啜(すす)る貝のお味噌汁がこれまたいいお味。ハマグリ? あさりかしらと思いつつ箸で摘まんでみると、なんとベビーホタテであった。うーん贅沢。お向かいのM嬢の海鮮ラーメンもエビにカニ、そしてホタテとこれまたにぎやかである。澄んだスープにわかめの緑が映えて美しい。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化される。
最新刊『PTAグランパ!』ドラマ化決定!(NHKプレミアムドラマ 4月2日スタート 毎週日曜10時より放送 主演:松平健)
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