連載
アイランド・ホッパー
2 礼文島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 バスはそのあと礼文最北端=スコトン岬を経て、島の南西部に立つ桃岩に猫岩を廻った。桃岩は桃まんじゅうにそっくりの、そして猫岩は背中を丸めた猫が遠く海の果てを眺めているかたちの巨岩である。どちらも絶景かつ風光明媚。
 だがいかんせん寒すぎた。このとき気温十二度、北東の風三メートル。しかも小雨。ガイドさんによると「礼文島の六月〜九月は晴天率が低く、すっきり晴れ渡る日は四か月間で十五日程度しかない」とのこと。がーん。梅雨よりタチが悪いかも。
 初夏気分で島を訪れたわたしは最後の目的地「北のカナリアパーク」をバスが出発し、終点の香深港に着くやいないや「なんかあったかいもの食べたい」、涙まじりにM嬢に訴えた。
「わかりました。冷えたときにはラーメンです」厳かに頷くM嬢。「港近くでおすすめのラーメンありますか」、すぐさまガイドさんに尋ねてくれる。うう、頼もしい担当さんだ。方向音痴だけど。かなり天然だけど。
 おすすめの「ちどり」というお店へ早足で向かう。なんでも「ほっけのちゃんちゃん焼き」発祥の店だという。確かに店内に一歩入るやもうもうたる煙が立ち込め、魚の焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 だが今回はラーメン、それも目のまえの海で獲れた海産物をしこたまのっけた海鮮ラーメンを迷わず頼むことに。このラーメンがもう感動的に旨かった! 澄んだ塩味のスープには複雑玄妙な魚介系の旨みが溶け込んでいる。具材はボタンエビに始まり、ツブ貝にホタテ、厚いチャーシューにメンマとぷりぷりのわかめ、そして生の甘いウニがどどん!とのっている。
 エビは半生の味噌まで濃いお味。貝類は新鮮ゆえ歯ごたえはあくまでしっかり、噛めば噛むほどじわりと旨みが口に広がる。そしてウニ。ラーメンにのっけるなんて罰が当たりそうなほど新鮮でつやつやと輝いている。熱いスープでじゃっかん火が通ったおかげで身の甘塩さがさらに濃縮され、またなんとも堪らない。
「ごちそうさまでした」手を合わせたときには、寒さなんてどっかに吹き飛んでしまっていた。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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