連載
アイランド・ホッパー
2 礼文島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 さて旅も三日目、礼文島にさようならをする日である。
 お土産でも探そうかとすこし早めに港に着いた我われの耳に若い男性の絶叫が聞こえてきた。なにごとぞ。急いで声のするほうへ駆け寄る。

 海上をゆっくり進む利尻島行きフェリーの最後尾デッキに立ち、手を振る男性。ここまでは日常の風景だろう。
 異様なのは岸壁である。手を振る男性に向かい、なにやら大声で叫び、歌い踊る青年たちが三人。しかもうちひとりは裸足。そしてかんじんの歌と踊りは大学の応援団風といえばよいだろうか、もしくは江頭2:50、通称エガちゃん風。
 フェリーが見えなくなり、ようやく踊り終えた三人に突撃取材を敢行。リーダー格の裸足の男性によると「我われ二名は桃岩荘というユースホステルのヘルパーです。こちらはいまのフェリーで着いたお客さん。毎回こうやって泊まってくれたお客を見送り、いらしたかたを歓迎しています」とのこと。なんとスタッフのみならず、お客も加わったパフォーマンスだったのだ。

 忙しそうな彼らを引き留めるのも忍びなく、かわりに町に戻り、商工会議所を尋ねてみることに。アポなしで突然あらわれた我われに、会議所のみなさんは快く話に応じてくださる。以下、会議所のかたのインタビュー抜粋。
「あー桃岩荘ね。有名ですよ。五十年ほどまえに出来た礼文島の宿泊施設の草分けです。桃岩の横にある、昔のニシン番屋、ま、漁師小屋を使った建物でねぇ。あの踊り?あれも昔っからですよ。わたしなんか小さいころから見てるもんで驚かないというか、もはや慣れちゃったというか。全国的にも有名なユースホステルで、最近は『四十年前に泊まりました』と言って、懐かしさからふたたび泊まりに来る熟年のお客なんかも来てるそうですよ」
 知らなかった……礼文島にそんな超有名な(一部では)宿があるなんて……



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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