連載
アイランド・ホッパー
3 八丈島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 八丈島歴史民俗資料館はその名の通り、先史時代からの島の歴史や自然、文化、さらには「第一号」の宇喜多秀家(うきたひでいえ)から始まる流人コーナーまで様々な分野を網羅した資料館である。使われている建物は旧八丈支庁舎。木造平屋建て、レトロ感漂うこの建物じたいが貴重な民俗資料だ。お願いしてあったガイドさんが一部屋ひと部屋、丁寧に案内してくださる。ガイドさんの説明で、三原山は十万年前ごろから、一方の八丈富士は一万数千年前に噴火したまったく別の火山であること、黒潮に乗って船やひとが流れ着きそのおかげで様々な文化がもたらされたことなどを知った。


 そして流人。「流人というと大罪人と取られがちですが、八丈に流されたのは思想犯や任侠者が多かったんです。彼らのおかげで江戸や薩摩の最先端の文化がもたらされました。だから島のひとも流人を大切に扱った。また流人も三つの約束事――島抜けしない、島娘と結婚しない、密書を出してはならない――を守れば自由に暮らせたので生き易かったんじゃないでしょうか。江戸時代、男性の平均寿命が三十・五歳だったところ、流人は五十五歳でした」と、驚くべき事実を教えてくれた。でも確かにそうかも。温暖な気候、豊富な海の幸、懐の深い島の人びと。これだけ揃えば長生きしないほうがおかしい。


 二時間ほど見学して、ホテルに移動する。今回の宿は、ひょうたんの右ウエスト部分、三根地区に建つ「リードパークリゾート八丈島」。部屋の窓から深い群青に輝く太平洋が見渡せる。地下一階に設けられた大浴場と露天風呂からも海を一望でき、夕暮れ、刻一刻と変わってゆく空と海の青を眺めながらのお風呂はとても気持ちがよかった。
 汗をさっぱりと流したわたしとM嬢は、夕食を取るため地元のかたに勧められた居酒屋「大吉丸」へ。大衆的で温かい雰囲気のお店だ。


 まずはビールで乾杯。たくさん汗を流したあとだけにビールが美味い。お通しは海藻を入れた玉子豆腐に、えびとオクラのあんをかけたもの。海藻の歯ごたえが意外に強くてちょっとびっくり。


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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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