連載
アイランド・ホッパー
3 八丈島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 翌日は予報通り快晴。午前中は「初心者でもできる堤防釣り」に挑戦。世話してくださるのは神湊(かみなと)漁港近くのフィッシングクラブ。こちらは「宝亭」という食堂も開いているので、釣った魚をお店で調理してくれるという。
「今日のお昼はじぶんたちで調達じゃー!」
「了解ですッ!」気炎を上げるわたしとM嬢。

 堤防に着くと「釣り歴五十年」といった感じのおじさんがすでにいらしており、釣竿の扱いかたからコマセの詰めかたまで懇切丁寧に教えてくれる。

 

 堤防から海を覗きこむと、おるわおるわ、ちっこいのから派手な縞柄の、くち先の長いのからまん丸いのまでさまざまなかたちの魚影が見える。釣るより網で掬(すく)ったほうが早いんじゃないかと思えるくらいの魚影の濃さだ。期待に胸膨らませ、午前十時、いざフィッシング開始。

 開始五分後、早くもアタリが来た。夢中で竿を上げる。縦じまの五センチほどの魚ゲット! だがおじさんは、「あーこりゃ食べらんねえやつだわ」、針を外し海へポイ。ああッなんかもったいない! だがおじさん曰く、「これはね不味いの。ここらじゃ誰も食べないの」。そ、そうなのか……。気を取り直してふたたび糸を垂れる。
 と、今度は横のM嬢が「なんか引いてます!」と叫ぶ。「上げてあげて」、おじさんに促され竿先を上げるM嬢。赤っぽくて流線形の綺麗な魚が、びちびち、針にかかって暴れている。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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