連載
アイランド・ホッパー
3 八丈島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 踊りが終わると八丈太鼓の登場である。太鼓を台の上に乗せ、左右両側から叩く。一方は「下拍子」といって正確なリズムで叩き、もう一方は「上拍子」、リズムに合わせてアドリブで叩く。決まりごとはなく、まるでジャズを聴いているような自由奔放さが最大の魅力だ。


 わたしが聴いたのは、ご夫婦で上下の拍子を打っていらした。さすが夫婦、息が合っていて、アドリブなのに最後の一音までぴたりと決まる。観客から盛大な拍手が沸き起こった。

 踊りと太鼓の余韻に浸りながら、「島ずしリターンズ」に向かう途中、「あしたばソフトクリーム」という看板を発見。寄り道することに。
 じつはM嬢、「旅に出るとソフトが食べたくなる」そうで、初回の桜島では「こみかんソフト」を、二回め礼文島では「こんぶソフト」を食していた。こうなったら「M嬢のご当地ソフトクリーム食べ歩き」もシリーズ化しよう!と思い立ち、「あしたばソフト」も食べてもらうことにした。以下、M嬢の実食レポート。
「滑らかでクリーミー。わずかな苦みもグッド。これまで三回のうちでは最高の味」だそうである。


 ちなみに「こみかんソフト」は「全体に甘みは強いが、生乳成分少なめでちょっと固い感じ」、「こんぶソフト」は「昆布のつぶつぶが舌に当たるのが惜しい」そうである。次回はいったいどんなご当地ソフトに巡り合えるだろうか。乞うご期待。
 さてかんじんの島ずしである。昼で予約が取れたのは奇しくも昨日お世話になった「宝亭」。ここでようやく念願の島ずしにありつけた。漬けられたねたの色から別名「べっこうずし」とも呼ばれるらしい。江戸前寿司よりかなりおおぶりな一貫を箸で摘まんでぱくり。甘めの醤油だれに、練り辛子の辛味とかすかな酸味がよく合っている。


  美味しいおいしいと食べ進むうちに「あれ、この味、なんかに似てる」という思いが頭の隅を掠(かす)める。なんだろう。ふだん食べているもの、そのなにか――しばらく考えてこたえが出た。ホットドッグ。そう、島ずしとホットドッグはほのかに似ているのだ。醤油とケチャップの違いはあれど、やや甘めの調味料に、旨みの凝縮された具材。そしてなんといってもふんだんに使われた辛子が、島ずしとホットドッグを近しいものにしている。気がする。わたしだけかもしれないが……。
 一人前八貫の島ずしを美味しく平らげたわたしとM嬢は、八丈島最後のイベント「黄八丈織」の体験をすべく工房へと向かった。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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