連載
アイランド・ホッパー
3 八丈島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 黄八丈は八丈島に伝わる草木染めの絹織物だ。織物の技術を伝えたのもまた、都からの流人と言われる。陽を受けると黄金色に輝く黄色の正体は「八丈刈安(かりやす)」と呼ばれるイネ科の一年草で、この黄金色を主体に、茶や黒、白などの色糸を組み合わせ、さまざまな文様を織り出してゆく。木製の織機に縦糸を張り、その間に舟形の「杼(ひ)」をくぐらせることで横糸を通し、一段いちだん織りあげる。すべて手作業で、熟練した職人でも一日で数十センチしか織れないという、とても根気の要る作業だ。

 織機にはピアノのペダルのような「足」が四つついており、これを交互に踏み替えながら両手で杼を通す。文様が均等になるように両手両足、さらには頭まで使うかなり高度なタスクである。不器用で単細胞なわたしが織ると、糸を通したはずがなぜか解けてしまったり、糸を引き締めるのを忘れて端がでこぼこになってしまったり。それでも伝統工芸士の資格を持つ店主さんは、根気よく教え、直してくれる。うう、出来の悪い生徒ですみません。
 三十分ほどかけて、なんとか十五センチほどのコースターが完成。指導のおかげで綺麗な格子縞が等間隔に並んでいる。店主さんが仕上げを施し、のちほど送ってくれることに。礼を言って店を辞去する。
 ホテルで荷物をピックアップし、空港に向かう道すがら、今回の旅を反芻する。
 流人の伝えた文化に触れ、島ずしを始め美味しい郷土料理をたくさんいただいた。これらはすべて黒潮のもたらす恵みと言えよう。けれども。わたしは思う。一番の「恵み」は、初日に助けてくれたお姉さんや資料館のガイドさん、釣りを教えてくれたおじさんや親身になって車を走らせてくれたタクシーの運転手さん、それに黄八丈織の先生である店主さん――島のひとの温かさ、そして優しさではないだろうか。
 大昔から黒潮に乗って、さまざまなひとやものが流れ着いて来た八丈島。それらを拒むことなく、広いこころで受け入れて来た島のひとのおおらかさこそが、黒潮のもたらした一番大きな恵みなのではないだろうか。


 空港が見えてきた。お別れするのが淋しい島が、またひとつ増えてしまった。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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