連載
アイランド・ホッパー
4 軍艦島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 そんなわたしに優しいまなざしをそそぎながらYさんは、「ちなみに『12月に軍艦島に行く』っていうと地元のひとはみな『えッ』とのけぞります。渡し舟の船長さんにも『冬の船旅はベーリング海峡の蟹工船のごとく荒れるばい』って言われました」世にもオソロシイ事実を告げる。「……ベーリング海峡」「蟹工船……」不安げにお互いを見交わすわたしとM嬢であった。


 お昼は長崎港内にある「出島ワーフ」というお洒落なエリアで「紅灯記レッドランタン」というお店のちゃんぽんをいただく。わたしとYさんは「海鮮ちゃんぽん」を、M嬢は「海鮮皿うどん」をオーダー。運ばれてきたちゃんぽんはキャベツやもやし、ニンジンなどの野菜に加え、ぷりぷりの海老やイカがたんまり。まずは白濁したスープをひと口。豚骨出汁だというのに臭みや脂っぽさがまったくない。まろやかで濃厚、なおかつ上品なお味だ。「長崎では、どんなに汚くて小さなお店でもちゃんぽんだけは美味しいんです。外れることはありません」Yさんのことばに深く頷く。
 M嬢の皿うどんは揚げた麺の上に、タケノコや海老、豚肉などをふんだんに入れた塩味のあんがかかっていてこれまた美味しそう。海の幸山の幸、両方に恵まれた長崎ならではの逸品といえよう。

 食後は出島を「さるく」。さるくとは長崎の方言で「ぶらぶら歩く」という意味。細い坂道の多い長崎は、車よりなにより「さるいて回る」のがいちばんとのこと。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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