連載
アイランド・ホッパー
4 軍艦島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 翌日は曇天。朝9時に、常盤ターミナルから徒歩3分ほどにある「軍艦島デジタルミュージアム」に集合。ガイドさんに館内を案内してもらいながら、軍艦島についての基礎知識を身に付けてゆく。展示された3000枚以上のモノクロ写真には、島内で生活していた人びとの暮らしぶりが克明に映し出されている。当時のアパートの室内を忠実に再現したコーナーや、海底炭鉱に向かう道のりをデジタル映像を使ってリアルに体験できるコーナーなど展示内容は盛りだくさん。予備知識なく長崎に来たひとでも軍艦島上陸をじゅうぶん楽しめる工夫がされている。

 ミュージアムを出、高速船マーキュリー号にいざ乗船。我われ三人は2階に上がり、デッキ席に陣取る。
「酔い止めです、飲んでください」M嬢がわたしとYさんに錠剤を渡してくれる。揺れませんように、無事に上陸できますように。祈りつつごっくん。

 軍艦島への約40分の船旅は祈りが通じたのか揺れもほとんどなく快適に進む。伊王島(いおうじま)に寄港したのち、高島の横を通り、船はどんどん軍艦島へ近づいてゆく。ただの黒い塊にしか見えなかった島の様相が、細部までだんだんはっきり見えてくる。圧倒される思いで島を凝視する。曇り空の下、高い岸壁に囲まれ、ぽつんと洋上に浮かぶ島はまさに軍艦そのもの。岸壁すれすれまで高層アパートが立ち並び、わずかに残る元々の岩礁のてっぺんには鉱長の住んでいた「島内に一つだけ」という一戸建て が遠望できる。
 まずは船で島をぐるりと一周し、上陸できない箇所を船上にてガイドさんが案内してくれることに。

「あれは学校、その向こう側は病院です。軍艦島には島内だけで生活できるよう、ありとあらゆる施設が揃っていました。病院や小中学校はもちろんお寺に商店、映画館やパチンコ店まであったんです。けれど土がない島なので畑は作れず、真水も湧きません。なので毎日長崎から水や生鮮食料品を運んでいました。ちなみに家賃と水道代は会社持ちで無料。電気代も石炭の島だけあって格安で、おかげで家電製品の普及率が高く、例えば白黒テレビ所有率が全国平均10%の時代、軍艦島では100%を誇りました」島の生活史をガイドさんが語ってくれる。ちなみに「会社」とは軍艦島を開発した三菱鉱業のことである。説明を聞くあいだにも船は動きつづけ、島は様々な「表情」をわたしたちに見せてくれる。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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